八王子ユースシアター2021
8月のオンラインプログラム
「演劇と経済についてお話をする会」を、改めて考える。

こんにちは。荻山です。
公益財団法人八王子市学園都市文化ふれあい財団という組織で、いろいろな人たちが豊かな人生をおくる手助けを、芸術文化の側面から行う仕事をしています。私はその中で、主に演劇事業を担当しています。

私がこの仕事を始めたのが5年前、以来、ずーっと「演劇の続け方」について考えています。演劇を辞め、演劇から離れていってしまう多くの人たちの背中を見ながら、演劇を続けるって難しいな、と感じています。

そして 「演劇の続け方」 を考えるにあたり、最近、演劇とお金についてとても考えています。
それは、アーティストや制作に、しっかりとお金について考えている人がいる、というのが、安定して表現活動を続けている重要な条件であるなと感じることが多いからです。

そんな中、以前、八王子ユースシアターのオンラインプログラムで「演劇と経済についてお話をする会」の講師を行ってくれた、オグラチヒロさんに再会し、お話をする機会がありました。

いろいろと話が盛り上がった最後に、オグラさんが一言。

ーー 「世の中に出ることがなく終わってしまった 『演劇と経済についてお話をする会』の議事録を、ホームページで公開しませんか。」

や、やばい。む、胸が痛い。
というのも、八王子ユースシアターに学生マネージャーとして参加してくれた中村さんが議事録としてまとめ、それをオグラさんが編集してくれたものがありまして、これがとても良いものになりました。ので世の中に発表したいですね、という話になり、

「折を見て、どこかで公開します。」

と、私が答え、そして・・なんだか・・とても忙しくなり・・そのまま・・ああ・・そのままに・・

オグラさんはそのことをずっと気にしてくれていて、再会したタイミングで改めて声をかけてくれたというわけでした。

よし、やろう。でも、どうやって発表しよう。
と思い、議事録を読み返していたら、今読むと改めて色々と思うことがありました。
というわけで、議事録を紹介しながら、改めて色々と思ったこと、考えたことについても書いてみたいと思います。

0.参加者

議事録(中村・オグラ)

{タイトル} 八王子ユースシアター8月のオンラインプログラム 第2回 「演劇と経済」についてお話をする会 
{日時} 2021年8月27日(金) 20:00~23:00
{出席者} 小堀さん、オグラさん、新田さん、荻山さん、原口、甲斐、中村、外部参加者(13名)


振り返り(荻山)

この日は、総勢20名がZoom(オンライン)で話をし、そのあと、やはりZoomで2次会があったのですが、そこにも10名くらいが残り、話は果てしなく盛り上がり、深夜1時に私がダウンした後もやはり果てしなく続いたらしき話を、最後まで参加した学生マネージャーの1人から聞きました。みんな、元気だね。

1.昨今のチケット代の上昇傾向について

議事録(中村・オグラ)

{トピック1}昨今のチケット代の上昇傾向について

――トピック提供者は、都内の小劇場のチケット代平均価格が2008年は3,191 円、2020年で4,525円と、12年間で1.4倍にもなっており、特に2015年から2020年にかけて価格上昇が顕著であることに対して、関心を寄せていた。

<<<話し合い開始>>>

【身近な例】

・最近は、チェキ配布、何度か来ると出演者と話せるなど、付加価値をつける公演が増えていると聞いた。(荻山)

・有名な俳優を1名起用することで演劇の付加価値を上げていることも。(オグラ)

[質問] 参考にされているチケット代のデータは当日料金か前売り料金か。(小堀)

→「CoRich舞台芸術!」の幅がある料金設定の最高価格のデータ。よって、当日料金である可能性が高い。(提供者)

―(補足)「CoRich舞台芸術!」とは、2008年より運用開始された舞台芸術のチケット管理システムならびに、クチコミ投稿サイト。

・公演数の減少も一因かも。公演が多く打てないことで平均価格が上昇しているのでは。(荻山)

【CoRich舞台芸術!の利用状況に関連する要因】

 ・「CoRich舞台芸術!」自体の利用者数の増加もあるかも。(小堀)

 ・運用開始から10年以上経過して「CoRich舞台芸術!」の知名度が高まり、商業演劇など高価格帯の利用団体の比率が上がっている可能性もある。(オグラ)


【物価の上昇】

・単純な物価の上昇(参加者) 

→実際に、消費者物価指数は2013年頃から上がっている。しかし、他の財・サービスでは、ここまでの上昇は見られない。(オグラ)


【東京での価格上昇に注目】

・東京オリンピックへの期待感も影響しているのでは。(オグラ)


【演劇関係者への対価の支払いの意識の変化】

・俳優やスタッフに対する対価の支払いの変化。俳優の権利を保障しようという近年の動きに連動しているのかも。(参加者)

・プロデュース公演の増加。(オグラ)

―(補足)プロデュース公演では、出演者公募の際に賃金の最低保証を予め設定していることが多いため、賃金設定が曖昧になりやすい劇団よりも相対的にチケット代が上がりやすいと考えられる。


【劇団の料金設定】

・ユースチケットがポピュラーになる流れと連動しているのでは。チケット料金設定が細かくなり、ユース料金で割り引いた分が一般料金にのせられている。(小堀)

・演劇関係者は経費計算があまり得意ではない傾向がある。経費がチケット代に反映されておらず、チケット料金設定内でのみ調整しているのでは。(小堀)


ポジティブな見解】

・今まで曖昧であった部分にもきちんと対価が支払われるようなり、劇団にとっても、観客側にとっても良い環境が整ってきていることの結果。(荻山)

・2020年~2021年の1席当たりの価格上昇は、コロナ禍での公演による座席数の減少が原因かも。劇団側の苦肉の策ではあるが、この場合席を減らしたことで見やすくなり、座席の価値自体も上がっている。よって価格上昇は妥当と言える。(オグラ)


【客層の変化】

・地元進学志向の若者が増え、東京の若者が減る。それにより、演劇需要年齢層が上がっていることによる価格上昇。(小堀)

・少子高齢化による演劇需要層の変化も連想できる。(小堀)


振り返り(荻山)

トピック提供者が、 「CoRich舞台芸術!」 のオープンデータを解析して作ったという資料をもとに、お話をしました。

まず、この方が示してくれた資料がとてもすばらしくて、感激したことを覚えています。気になることに対して、解析条件を変更してすぐにデータを出せる仕組みになっており、ほんと素晴らしかったです。

私の知っている小劇場(2000年代後半ころ)は、公演主催者、参加者(主に俳優たち)が自腹を切ることで成り立っていた印象でした。なので、チケット代が上がっていることで、自腹を切っている人たちにきちんとお金が回るといいなと思います。

ここからの数年で、チケット代の上昇曲線がどのようになっていくのかは興味深いです。
オリンピックを超えて、コロナ禍を越えて演劇を取り巻く状況はどのように変わるのか、チケット代の上昇には限度があるのではないか。

演劇に関わる人たちにとって、金銭的な対価、精神的な対価がきちんと見合う労働環境がどうしたら整うのか、公共の立場で芸術文化に関わる身としては課題だと感じています。

しかし、演劇以外の業界を見回したとき、見合う仕事が世の中にどれくらいあるのだろうか。

2.演劇関係者の生計の立て方、演劇チケットの売り上げの行方

議事録(中村・オグラ)

{トピック2-1}演劇関係者の生計の立て方、演劇チケットの売り上げの行方

 ――トピック提供者は、俳優を雇うお金がどこから来ているのか、チケット売り上げの行方等、演劇関係者の生計事情に関心を持っている。

<<<話し合い開始>>>

【チケットの売上の行方】

・演劇チケットの売り上げと演劇にかかる費用は等しくなることが多い。(小堀)

・主宰する「わざおぎるど」の過去公演では、売上から経費を引いた後の金額を自分含め俳優同士で均等分配する手法をとった。平等な俳優同士の組合であるという共通認識があったからできたこと。予め俳優全員に売上枚数の損益分岐点を共有し、全体目標を立てたのも大きかった。(オグラ) 


演劇関係者の生計事情】

・会社に所属しているスタッフさん、企画、制作担当など安定している方もいる。俳優、劇作家などはバイトと演劇活動の兼業をしている方が多い。(小堀)

・生計を立てるために講師をやる方も。(参加者)

・クラウドファンディングを活用している方も。(参加者)

・役者には稽古の拘束時間に対する賃金は出ていないことが多い。(参加者)

・タカラジェンヌは阪急電鉄社員扱いになるので、安定した給料が出る。(参加者)

―(補足)タカラジェンヌも途中から個人事業主で契約制に変更と聞いた。(オグラ)


【演劇の経済的に非効率な面】

・経済的に非効率な舞台芸術が現代まで残っているのは、やりたい人が絶えないからだそう。(参加者)

・2回の本番のために2ヶ月の稽古。時給換算できるはずがない。新作を毎度つくるのではなく、効率性も考えて過去の演劇の再演もいいのでは。(荻山)

・日本には新作主義な傾向がある。よって、客席が育たないという一面も。(小堀)


【俳優のプロの定義】

・俳優のプロの定義が不透明すぎる。(参加者)

・日本での俳優のプロとアマの違いは、俳優業を主収入としているかどうかで捉えられる。一方、ブロードウェイでは、俳優としての活動の意義を論じた書類が組合に通るかどうかと聞いたことがある。よって金銭的な割合のみで判断されるわけではない。 (オグラ)

・ハリウッドもプロデューサー界では、出資者に企画書を持っていって許可が出るとプロデューサーに就任。許可がでるまではアルバイトと兼業が一般的。(小堀)

・プロの基準は失業保険が効くかどうかと聞いたことも。(小堀)


{トピック2-2}借金の増加を回避する演劇運営の方法

――トピック提供者は、知り合いで演劇を順当なペースで打ち、且つ、補助金等も最大限活用していたが借金が膨らんでいたケースがあり、このような事態を避けつつ劇団を運営する方法を話し合いたいとのこと。

【劇団の補助金】

・劇団として収支を合わせることを考えることが大切。補助金を利用するなら、別で収入を上げる事業をして、劇団の経営を安定させるべき。(荻山)

・お金の話がタブーのような風潮もある(参加者)


振り返り(荻山)

演劇で食べていくことを目指す若い人たち、演劇を生業にしている人たちと接する機会が多い私としては、一番興味関心のあるトピックでした。

「経済的に非効率な舞台芸術が現代まで残っているのは、やりたい人が絶えないから」という参加者の方の発言がとても心に残りました。というのも、「やりたい人」が身を削ることで成り立つ舞台芸術ばかりでは限界がくると、その時とても感じていたからです。

タカラジェンヌの例のように、企業が協力して、 舞台芸術を支える、みたいなことが1つ理想なのかも。
スポーツの現場においては、企業がその活動を支える例は結構あります。演劇もそうなるといいな。海外の事例も出ていましたが、それらを参考にしながら、日本の文化に合ったやり方を見つけなければなと思います。

同時に、アーティストが孤立しないこと、情報交換が行われることがとても大事なことだと感じています。それは、組合のようなものに繋がっていくのであろうか。

演劇が、やりたい人が多い業界であるということは、選ばれることで仕事を手にする人の数が多い、ということが先日オグラさんと会った時も話題に上がりました。そういうバランスを改善していくこともさることながら、不利な条件、不当な賃金、無茶な要求が出てきた時に、選ばれる側がそれに気が付けること、比較できる事例があること、問題が発生した時に間に入ってくれる第三者がいることで、救われること、解決できる問題が一定数あるよねという話に、その時なりました。この振り返りを通して、改めてその通りだなと実感しました。

3.都道府県や地域の演劇活動

議事録(中村・オグラ)

{トピック3}都道府県や地域の演劇活動

――トピック提供者は、地方での演劇活動の現状に関心を持っている。

 <<<話し合い開始>>>

【地域毎の教育現場での演劇の現状】

・岩手県では青少年鑑賞事業といって、演劇、音楽などを見る機会が毎年ある。(小堀)

・学校の巡業は劇団側の重要な収入源にもなっている。(小堀)

・大阪に住んでいる自分は、高校一年生になって初めて演劇を観る機会があった。劇場が多い大阪では、逆に子どもに何を観せるかは野放しなのかも。(オグラ)

・宝塚市の中学校では伝統芸能の鑑賞機会がある。(参加者)

・岩手は市民参加劇が全国で一番盛んなので、鑑賞するより参加していることも多い。(小堀)


【地方での演劇活動振興によって期待できる経済効果】 

――東京大阪では、演劇活動により経済効果が大きくなっている例があり、経済効果を地方まで拡大するためには地方の演劇活動を盛り上げる必要があるのではと考えた。

・東京や大阪で評価の高い演劇を一方的に地方に持っていくことはいいことなのか。(オグラ)

→逆に選べないからこそ、自主的には見ない種類の演劇に出会うことができることも。(荻山)


【演劇における経済効果】

・そもそも演劇の経済効果は他の産業に比べると弱い。(小堀)

・ブロードウェイではコアな演劇鑑賞客以外の客を「TKTS」で獲得し、客が近隣の施設を利用することで経済を回している。(オグラ)

―(補足)「TKTS」とは、上演当日に売れ残った公演チケットを、公式に割引して販売を行うディスカウントチケットストア。


【地方の演劇の経済効果】

・演劇をナイトカルチャーとして醸成して、観光客を宿泊させる。(参加者)

・地方のアートフェスティバルなどでは参加者に地方の宿泊施設を利用してもらうことで、その地の特産品などに触れてもらう機会を与えている。(小堀)

・経済効果まで考えて演劇をできる人はいないのではないか。(参加者)

・地方の公共劇場の関係者が、地方の経済波及効果や人材育成の範囲までまだまだ考えられていない。(小堀)


振り返り(荻山)

私は北海道の釧路市というところで産まれ、20歳まで過ごしました。ずっとサッカー少年だったのですが、19歳の時にたまたま演劇に出会い、今に至ります。演劇という文化に出会えてよかった。

娯楽の少ない釧路市だったからこそ、東京乾電池や黒テントの地方公演があった時に、劇場に足を運んだのだと思います。そして、地元に根差した優れた劇団との出会いなどもあり、そういう環境で演劇を好きになっていったという経緯を振り返ると、娯楽の多い東京では、私は 東京乾電池や黒テントの公演に興味を持つことはなく、地元の劇団とも出会わず、演劇と出会わないままだっただろうな。それほど、演劇とは縁遠い生活をしていました。釧路市だったから、演劇とも出会えたなと、つくづく思います。

「地方の公共劇場の関係者が、地方の経済波及効果や人材育成の範囲までまだまだ考えられていない」という小堀さんの発言が、がーんときつつも、公共劇場の関係者に求められていることってなんなのだろう、という気持ちにもなりました。公共劇場の関係者の多くは、低賃金で働いています。芸術が、 経済波及効果があるものであるということが、その地方の人たちに伝わっていない、証明できていない事が、根本の原因なのではないかなと思います。それを、 公共劇場の関係者が示せということであるのかもしれませんが、もうすこし大きな仕組みの問題もあるなと、公共劇場に身を置く側としては感じます。

「TKTS」 の仕組みは、とても良いなと思いました。芸術活動単体で収支が成り立たなくても、そこに人が集まれば潤う人たちが出てくる。それが巡り巡って、きちんと芸術活動に還元される、というのもまた1つの理想的な形だと感じました。お金の流れを生み出せなくても、人の流れを生み出せれば、そこにはお金が付いてくる、気がします。

4.コミュニケーション教育、演劇の需要、「演劇」と「変わり者」についての考察

議事録(中村・オグラ)

{トピック4}コミュニケーション教育、演劇の需要、「演劇」と「変わり者」についての考察

――トピック提供者は、演劇を始める人は“自分は変わり者”という意識を持っている人が多いと感じており、また、そういう集団は短期的な繋がりよりも長期的な関係を築いているように感じている。

<<<話し合い開始>>>


【演劇の長期的な経済効果】

・劇場を社会にうまく適応できない人の集いの場にすることで、コミュニケーションの場にすることはもちろん、その地域にそのような人々が留まることで長期的な経済効果を期待している例もある。(小堀)


演劇と教育】

・幼少期に自分の見えている世界を他人に共有できない体験をしたことがあるが、自分の世界を他人と共有するツールとして演劇を見つけたことが救いになった。(オグラ)

・日本では、実演関係の表現に興味がある人を個性的と捉える風習がある。(小堀)

・演劇を教育に取り入れる神髄は、演ずることで自分ではない誰かの身になって考える体験をさせることなのかも。(オグラ)


【演劇と教育と経済】

・これからアート的な感性を身につけることが経済的な意義で価値化されてきているのかも。(小堀)

・経済学の用語で「享受能力」というものがある。以前ドイツで観劇した際に、ドイツは国民の演劇の享受能力の高さからか、実験的な作品が生み出されやすいと感じた。対して、日本では演劇の享受能力の低さにより、受け入れられるジャンルが限定されている可能性がある。より幅広い演劇ジャンルを楽しむため、良し悪しを判断する力を養うために、享受能力は必要。そして享受能力を高めるためには演劇教育をいかに根付かせるかが重要となる。(オグラ)

―(補足)「享受能力」とは、財・サービスを受け入れて楽しむことのできる能力。例えば、乗馬という娯楽を楽しむためには、馬に乗る能力(享受能力)が必要。

【演劇関係者と一般人】

・一般の人は演劇を高く、難しいものとしてみている。(参加者)

・演劇をする人が絶えないのは、演劇をすることで悩みが解決した人が絶えないということもあるかも。(荻山)

・演劇の本番に価値があるとする鑑賞者と、演劇制作過程に価値を見出す演劇関係者とでは大きなギャップがある。(小堀)

・演劇をしている人は一つの作品を作り上げる過程で、自分と他人の主張を調整する能力に優れている。それを活かせる仕事があるのでは。(参加者)

・完成像がわからないのに、モチベーションを発揮できることは演劇関係者の長所。(小堀)


【教育関係者と演劇関係者】

・教育関係者と演劇関係者がいまいち繋がれていない。(小堀)

・演劇をどの科目に分類するのかなども含め、演劇関係者が演劇のノウハウを教育関係者に伝えるには、文部科学省等の大きな組織が動かないと変わらない。(小堀)

[質問]塩釜では学校の演劇を劇場ホールで上演したりするが、他の地域でもあるのか?(参加者)

・岩手県西和賀町では銀河ホールでも似た例あり。(小堀)

・鳥取の鳥の劇場も実践している。演劇関係者と学校の現場の人とを繋げる仲介者がいたことで、うまく行った。(参加者)

・教育側、演劇側、お互いの課題を理解しあって良好な関係を築けていると、うまくいくことが多い。(小堀)


振り返り(荻山)

いま改めて読むと、 「享受能力」について考えることは、とても大切な気がしてきました。
作り手の側にいると、ついつい自分たちが提供できる演劇をどのように価値の高いものにしていくかということばかり考えてしまうのですが、演劇を受け取る側、観客側の 「享受能力」を上げることによって、 相対的に提供する演劇の価値が上がるという考え方もあるのだなと気づきました。

楽しいことが多いというのは、幸せだなと思います。つまり、「享受能力」 が高いと、幸せになれる可能性が高い。
演劇の 「享受能力」 が上がるということは、提供する側、享受する側、お互いの幸せにつながるはずだから、とても良いことであるはず。 演劇の 「享受能力」 を上げようというのは、 提供する側だけの都合にはならなそうと感じました。

さて、演劇を楽しんでいる私は、おそらく演劇の 「享受能力」 が高いはずです。だとするとそれは、どうやって高くなったのだろうか。元から高かったということはない。たまたまテレビで観た演劇が面白くて、ちょっと始めてみたら楽しくて、仲間とあれやこれや話しているうちにどんどん楽しさが分かってきて、色々な作品に触れることで新しい楽しさの発見がある。

振り返ると、結構、自発的にやってきたんだなと思いました。そして、他人との関わりなくしては、きっと向上しなかったなという感じがしました。

これはあくまで私のケースです。そのあたり、演劇を楽しんでいる他の人たちはどうだったのであろうか。色々な人に話を聞いてみたいなと思いました。そこに何か 演劇の 「享受能力」 が高い人が増えていくヒントがあるのではなかろうか。

まとめ

演劇とお金のことばかり考えていた今日この頃だったのですが、演劇をお金に直結させようとするから、いつまでたっても答えが出ないのだなと思いました。反省。

演劇を何かに変換する。その何かを別の何かに変換し、そこからさらに2、3回変換すると、やっとお金になるのかもしれない。なので、もっと大きな視野で演劇を取り巻く者たちを眺めないとならず、演劇における「風が吹くと桶屋がもうかる」的なこと、ちゃんと見つけなければなと感じました。

そして、創作をする人たち、 自分を含めた演劇活動をする人たちの充実、その活動の対価について考えるのですが、

演劇活動の対価 = お金 + お金以外のこと

だなと、最近つくづく思います。その比率だったり、「お金以外のこと」は人によって、時期によって違うなと感じます。そして、特にお金以外のこと、それが何なのかをはっきりさせておくことで、演劇活動の中で人が消耗していくことを防げるかもと考えています。それは、演劇がお金になりにくいからで、めちゃくちゃお金になるのであれば問題ないのかもですが。

また今回、「享受能力」 という言葉を知り、 演劇活動における 「お金以外のこと」から得られる楽しさを上げることはできないだろうか、と考えました。それは何の 「享受能力」 なのか?わかりませんが、やりがい労働的な、搾取的なことではなく、他人に誘導されたり、勝手に決められたことでもない、それぞれが演劇活動の中でちゃんと納得できる形で「お金」を得て、「お金以外のこと」から喜びを得る。そういう視点でも、日々の活動を考え直してみたいと思いました。

振り返ってよかったです。


最後まで読んでいただいて、ありがとうございます!
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