【豊岡演劇祭ツアーレポート】まおすけの豊岡/城崎めくるめく迷走めいろツアー

まおすけの豊岡/城崎めくるめく迷走めいろツアー

遠くに⾜を伸ばした観劇は、なぜか東京よりも⾯⽩く感じるものである。
今回の演劇祭では、観劇以外にもCAT(芸術⽂化観光専⾨職⼤)の学⽣と話し、現地のアーティストと出会うことができた。豊岡演劇祭を通して得た交流をきっかけに、⾃分の今後の⽴ち位置について考えられた良い旅⾏であった。


初⽇は⼋⿅駅のバス停に座っていた⽅に「新ハムレットですか?」と話しかけた。すると、⻘年団の役者さんであることが分かり意気投合。バスの中で東京から豊岡演劇祭を観にきた話をすると、「本当に東京から若い⼈が来るんですね!嬉しいです」と⾔われた。その⽅は東京在住だったけれど、演劇祭の1 ヶ⽉前から⻘年団の芝居の⼿伝いのために滞在しているという。


昨年、某市⻑の「演劇のまちなんかいらない」という⾔葉がニュースで⼀⼈歩きし、地⽅で演劇を盛り上げる意義について活発に議論がなされた。地域活性化のための演劇は近年のブームであり、その最先端を⾛るのが平⽥オリザ率いる豊岡地域だと思う。今回住⺠と交流する機会は得られなかったが、豊岡駅の静まり具合や、夜公演の観劇後に⾏く飲⾷店が⾒当たらないことなどから盛り上がっているのは⼀部の演劇⼈だけなのでは?という印象を受けた。しかし、出⽯永楽館で隣の席にいた年配客の「こういうの分からないけど⾒てみようと思ってねえ」という会話から、地元客は⼀定数獲得しているように思う。


⼀番地域との密着を感じたのは烏丸ストロークロック「但東さいさい」。農⺠歌舞伎の舞台で地元の⼦どもたちと共に⺠話を上演した。烏丸ストロークロックの俳優による舞踏はもちろん素晴らしかったが、⼦どもの奏でる⾳楽、朗読、⼊れ代わりで演じられる主⼈公も舞台に調和していた。この舞台に参加した⼦どもたちが今後も演劇に関⼼を持ってくれることを切に願う。他の上演に⽐べて圧倒的に地元住⺠のお客さんが多く(出演する⼦どもの親族など)、地元の特産物が貰える抽選会の開催など、独特な盛り上がりを⾒せていた。


交流を語る上で外せないのは、城崎国際アートセンターにてCAT(芸術⽂化観光専⾨職⼤学)の学⽣3⼈とどらま館制作部で⾏った座談会(お話会)のことである。⾼校の後輩と嬉しい再会をした。3⼈の興味関⼼について聞き、早稲⽥演劇の現状や、豊岡演劇祭と学⽣の関わり⽅などについて意⾒交換をした。実家も豊岡で、平⽥オリザが近所に引っ越してきたことをきっかけに演劇に興味を持った学⽣の話はとても印象的だ。将来は両親のケーキ屋を継ぐことが決まっているが芸術にも関わり続けたい気持ちを持っている。そこで、今後は空き家改装の助成⾦を利⽤して店を改装し、昼間はカフェの営業、⼤学が終わる⼣⽅の時間に稽古場として場所を開放するカフェ兼アトリエをやってみたいという。東京でこの発想ができる学⽣はいないだろう。⾃⾝の置かれた⽴場と興味関⼼を結びつける⼒を強く感じ、この⼒こそ今私に⾜りないものであるかもしれないと思わされた。


初⽇は友⼈が住む江原のシェアハウスに、2⽇⽬以降は城崎の家を借りて宿泊した。同じ時期にどらま館制作部のメンバーで集まれることになり、滞在中は普段早稲⽥で⾏っている話し合いよりも⽬に⾒えて活発な議論ができた。城崎の温泉やリラックスできる環境のおかげに違いない。城崎で話したアーティストやCATの学⽣に刺激を受け、現在構想中のどらま館とサークルの⼤規模な合同企画について、「今」早稲⽥演劇に必要なものは何かを全員で考えた。まだ構想中の段階ではあるが、私たちが豊岡/城崎で受けた刺激を活かす場所は間違いなくこの企画であると確信している。


他にも印象に残った出来事は多い。移動中の電⾞内でつい始まってしまう深い演劇トークや、他⼤学の友達と豊岡で合流したこと、デマンドバスに乗り遅れないために(激熱)中華丼をかきこんだこと、知らない解体⼯事の社⻑さんにおでんをご馳⾛になったこと。台⾵と被って帰宅できず、京都でもう⼀泊したこと。城崎の温泉で朝⾒かけた⼈がノイマルクト劇場+市原佐都⼦/Q『Madama Butterfly』に出演していたこと…。


私は相変わらず進路に迷い中だが、「豊岡はいいよ〜」というCAT の友達の声に少し揺らいだ。豊岡のような場所で演劇に携わりながらのんびり暮らすのに憧れはある。ただ、それをやるにはもう少し東京で揉まれてからが良いと思う。夜中にオトナたち進路相談に乗ってもらった中で、演劇の最先端を追いながら演劇教育にも携わりたいということを打ち明けた。興味があることを丁寧に聞いてもらったり、劇場職員はどう?などの提案を頂いたりした。早稲⽥演劇や、その周辺の環境を存分に使って⾃分の今後について絞っていきたい。物事を選択することはその他の選択肢を捨てることではなく、むしろやりたいことに近づくための⽅法である。

この記事を書いた人

関⼝真⽣
2003年生まれ、東京都出身。早稲田大学文化構想学部在学。劇団くるめるシアター所属。都立総合芸術高校で演劇を専攻し、演技を中心とした芸術表現を学んだ。行動力と真面目さが取り柄。将来何になるかは分からない。