【豊岡演劇祭ツアーレポート】ひとところに染まっていることを自覚する

ひとところに染まっていることを自覚する

あなたが演劇祭に赴く動機は何ですか?


「面白そうな演劇作品が上演されるから」、「色々な作品を一気に観られるから」、「その土地で観
光も楽しみたいから」、「わいわいして楽しそうだから」など、色々な理由があると思います。
演劇ネットワークぱちぱちで豊岡演劇祭ツアーを企画したのは、「U25のメンバーの皆さんに、普段はできない体験をしてもらい、それぞれの体験の記録をシェアしてもらう」「演劇祭で発見したことや感じたことをもとに、各自の活動やぱちぱちで活かすための方法を考え、実行してもらう」という意図があります。


私が今回豊岡演劇祭に赴いたきっかけは、演劇ネットワークぱちぱちのコンテンツとして観劇ツアーの話が出たからでした。したがって、自分の中で明確な動機を持っていた訳ではなく、観劇ツアーの引率的な役割を果たしつつ、稀有な体験ができたらという気持ちで出発しました。
そのような動機での観劇ツアー参加でしたが、終わってみてぼんやりと掴んだこととして「自分がひとところに染まっていることを自覚した」ということがあり、それが私にとって今回のツアーで一番の意義になりました。


「ひとところに染まっていること」とは何かと言うと、「自分の常識や価値観が、今いる環境に影響されすぎていて、視野が狭くなっている」ということです。もう少し言い方を変えると、私は今暮らしている東京での生活が当たり前になっていて、地方での生活やそこで暮らす人の感覚を想像することすら忘れてしまっていたことに気づいたのでした。


例えば、遅くとも10分も待てば次の電車が来る便利な東京に対して、豊岡(江原)では1時間に1本か2本程度しか電車が来ない不便さ。見知らぬ人の雑踏に晒されることの多い都心に対して、人混みに巻き込まれることはなく見知った人とすれ違って立ち話をするようなゆるやかな時間が流れる地方。もちろん東京/地方とか都心/田舎で区切られることばかりではないしこの限りではないのですが、地方に生まれ育った立場でありながら、数年間拠点を東京に移しただけでいとも簡単に自分の
感覚が塗り替えられるということを自覚し、衝撃を受けました。


作品鑑賞の面では、江原の日高文化体育館でルサンチカ『GOOD WAR』を、同じくワークピア日高で安住の地『丁寧なくらし』を、出石の永楽館で『新ハムレット』を観劇しました。初めての場所で、しかも普段演劇が上演されないような場所での観劇体験もあり、良くも悪くも刺激を受けました。


私が特に感銘を受けたのは、『丁寧なくらし』です。
作風としては、身体表現と台詞がシームレスなひとつの流れとして繰り広げられる一人芝居で
す。作中では、日常のエピソードのあれこれが取りとめもなく語られます。私には、これが演劇という
体裁を取ったエッセイのように思われました。


個人的な感覚としての言葉が心地良く、それがゆるやかに、且つ意志を持った身体から発される
ということに尊さを感じました。そこには、この作品が「豊岡で」行われる意義があったという訳で
はないと思います。そうではなく、コンパクトにパッケージされたこの作品が、千差万別の「くらし」
の中で生きているより多くの人たちに出会うための旅をしているということに意義があると思いま
す。


「所変われば品変わる」と言うように、所変わればそこで出会う人の質は全く異なります。それを創り手側はもちろん察知しないはずはないですし、観客側も、ある種異質なものとの邂逅によって、新鮮な驚きや発見が得られるでしょう。今後、この作品が別のどこかをまた旅するのかどうかは分かりませんが、色々な場所を旅して、色々な人に出会って、意識的・無意識的を問わず変化した再演をどこかで観たいなと思える作品でした。


豊岡演劇祭全体の制作に関する点では、会場によっては入口にフライヤーや看板がないだとか、大道芸人によるパフォーマンスの時間や場所の詳細に関する公式からのアナウンスがないということなど、普段東京で観る小さな公演でもなされている配慮や工夫がない場合があったことには少し驚きました。さらに、それらは人手不足によるものだと関係者が言っていた、とまゆたそ(私と同じく運営チームの齊藤舞夕)から後で聞き、正直なところ、演劇祭はまだ課題を持っているのだと思います。


以上のように、感銘を受けた部分も、課題だと思われる部分もありましたが、改めて振り返って思うのは、「ひとところに染まらずに表現や施策を探っていきたい」ということです。ひとつの環境だけに留まるのではなく、出来る限り様々な空間で息をしてみること。吸い込んだものを自分の中で取捨選択して、再構築すること。つまり、普段生活している場所ではない所に滞在してそこで得た知見を基に創作をしてみる、などという挑戦をしてみたいなという気持ちが生まれました。


今見えている「当たり前」を疑って、自分が真に満足できる演劇の形を探り続けるという具体的な方法が少し明確になった気がした、豊岡演劇祭ツアーでした。

この記事を書いた人

伊藤優花
1998年生。演劇ネットワークぱちぱち運営チーム、広報チーフ。
出演・劇評執筆・演劇制作補佐・広報協力など、広く演劇に関わっている。それぞれの能力を伸ばしたいと模索中。修行の必要性をひしひしと感じる毎日。
演劇ソムリエと称し、演劇にまつわる動画投稿も不定期に行っている。
Twitter:https://twitter.com/choco_galU
YouTube:https://t.co/6ObVBMwPlU