「25歳になるよ、どうやって演劇続ける?」座談会レポート(2023年2月25日開催)

演劇ネットワークぱちぱち運営チーム、まゆたそ(齊藤舞夕)です。

2023年2月25日18:15〜20:00(奇しくも25被り!)、25歳を迎えるぱちぱちメンバー2人を主役としたクローズドな座談会、「25歳になるよ、どうやって演劇続ける?」が行われました。

目次

  1. 座談会に参加した人たち(敬称略、座談会時点での年齢)
  2. 25歳になってどうだった?
  3. 就職と演劇
  4. 演劇と音楽の違い〜音楽はめちゃめちゃ仲が悪くてもなんとかなる〜
  5. 音楽業界から学べるあれこれ
  6. 制作サイドの本音
  7. まとめ

座談会に参加した人たち(敬称略、座談会時点での年齢)


《25歳チーム》
伊藤優花(ぱちぱち運営)…25歳
演劇ネットワークぱちぱち広報チーフ。時々役者、当日運営。演劇ソムリエになりたい。
寺原航平(ぱちぱちメンバー)…25歳
小屋+kop主宰。北海道札幌市出身。日本大学芸術学部演劇学科演出コース卒。北海道の冬が好き。

《大人(26歳以上)チーム》
平井寛人…26歳
演出をしている肉の匠。
升味加耀…28歳
演劇ユニット・果てとチーク主宰。劇作家、演出家。異なる国のアーティストと作品を作ってみたい。
荻山恭規(ぱちぱち運営)…41歳
八王子の公益財団で演劇事業の制作をしている。41歳なのだが、ぱちぱちの担当だからここに存在することを許された。

《U24チーム》
堀慎太郎(ぱちぱちメンバー)…24歳
フリーランスの俳優。東京を拠点にしながら、日本各地を徘徊して芝居をしている。
石川(ぱちぱちメンバー)…23歳
本人の希望により名字のみ。音大を卒業。おぼろげにずっと憧れていた役者というものを勉強中。
齊藤舞夕(ぱちぱち運営)…23歳
演劇ネットワークぱちぱちディレクター&マネージャー。日芸の演劇学科企画制作コースを卒業し、役者や制作、教育関係のこともやりながら演劇を続けている。演劇と生きていきたい。


まゆたそももうすぐ24歳になるので(※この文章の編集時点では23歳でした)、ひとつ上の25歳の皆さんの悩みや課題は将来的な私の悩みでもある!ということでzoomにて座談会に参加してきました。ザックリですが私が聞いていて印象に残った部分を残していこうと思います。

25歳になってどうだった?


伊藤U25の料金制度が残り1年しか使えないのか…。U24が使えないんだ…と思った。

平井:コロナが流行り始めたタイミングだったので、環境のことすごく考えた。20後半になってくるので、勉強するために何かに関わるとか、勉強するための行動じゃなくて、自分の作家人生をこれからどうしていくのかを考えた。

伊藤:インプットはするんだけど、アウトプットをどうするかという…。

平井:そうそう。

伊藤もう若者としてみられなくなる。社会的なポジションが変わるので…。

升味:私は25歳のときは社会人2年目のときだったので、自分の演劇人生のこととか、自分のポジションが変わるとかはあんまり考えられていなかったです。
ただ、劇場における舞台制作の人材不足などの大変さを知って、環境が良くないと、このままだとこの業界は持続できないんじゃないかと25歳の時に思ってた。
あと私は青年団の演出部だったんですが、すごく若年で賞をとっている方も周りにいたのでそこに焦りを感じながらやっていました

伊藤:すごい立場を確立している人もいるのに、私は…ってなっちゃう。

升味:芸能事務所は23歳〜25歳を期限とするところは多いし、役者さんは気になるところだと思う。
先輩とかでも、映像の仕事が入ってやっと食べられるようになったっていう脚本家の人もいる。

寺原:25歳になったとき、両親が祝いに来てくれた。25になって30が見えてきて、大人にならざるを得ない。
自分でも劇団を回していく中で、お金のことがよりシビアになってきたと感じている。ここから先どうやって芝居を続けようかなっていう…25歳になって思ったのは「焦り」でした。

伊藤:良かった私だけじゃなくて。

:なんか心理的にドンとくるらしいですよ。身体的にも。俺って30になったんやってなるらしいですよ。

寺原:30あたりが一番中途半端でしんどいよねと70を越えたマスターに言われました。50とかで突き抜けるまでが一番中途半端だよねって。

伊藤:35歳くらいの人が一番脂乗っていると私は思っていて、なんというか長距離戦というか、みんな辞めてくから、30を越えた時にそこに立っているかどうかが重要なんじゃないかと
持続可能かどうかみたいな話が出てましたけど、ギリギリでも持続可能だから立って居られてるのではと思っています。援助が受けられるとか、お客さんが入って回せるからとか要因はあるけど。

平井:自分がやりたいことを絞っていくみたいなものが30までにあって、見つかって、それで立てていれば良くて。

齊藤の感想
25歳になっての「焦り」というワード。これに関しては私も大学時代から「自分はこれといって何一つまともにできるようになっていないのでは?」とずっと自問しているので、すごく分かりました。既に23歳現在の時点で大学の後輩や先輩は結婚していたり、同期も演劇とは無関係な職場で働いていたりするので、演劇を続けている自分はこのままどこへ向かうのだろうと感じています。ただ、今の私の目標は「どんな形であれ演劇を続けていく」なので、それに対しての焦りはあまり感じていません。なぜならぱちぱちの運営に関わることで、今もこうして演劇を続けられているからです。

その上で今後は、「より具体的な目標を持って進んでいく」ことが必要になっていくのかなと思います。お金をこれくらい稼ぐとか、誰々とこんな仕事をしたいとかを考える中で、「そのためにはこういうスキルが必要である」と自身の武器を増やしていけるのではないかと考えます。例えば、新しく公演を打ちたい→スタッフやキャストに適正な謝礼を支払いたい→経費がかかる→助成金を申請しなければ→そのために企画書を書くことやプレゼン能力を上げる→助成金が交付される→運営が負担する経費が減る→謝礼が支払える…というような。

この座談会の後半で荻山さんたちが言っていたように、結局は成功(失敗)体験を積み重ねることでしか道は開けないのではないかと思いますし、助成金や企画書の書き方も、試行錯誤を繰り返していくしかない。実際、ようやく昨年8月の公演『むかしむかし、あるお家に』を対象とした初めての助成金の申請・交付が終わったので、これでまた1つ成功体験が増えたのだと思っています。私にとってそういう試行錯誤ができる場所がぱちぱちであり運営の仕事です。

就職と演劇


伊藤:自分は1度就職して演劇と全く関係ない仕事を1年半やったのですが、やっぱり人生の中心を演劇にしたくて。フルタイムだとそっちの仕事が真ん中になっちゃってるな、それは私の望んだ形ではないなと退職して今の形になるんですけど…。升味さんは仕事しながら演劇をやられてますよね?

升味フルタイムで働きながら年に2回くらい演劇やってます。

伊藤:それが私できなかったんですよ~!

升味フルタイムで働いていると、定期的に給料がもらえてボーナスがある。定時で帰ることができたり、夜や休みの日に稽古できたり、結構職場からの理解があって5日間くらいまとめて有給取れたりするので、年に2~3回は公演を打てている。その人の職場にもよるかなー。

伊藤:堀さんはフルタイムの就業経験はない?

:稽古がないときに1ヶ月がーっとバイトして、稽古を頑張る月とバイトを頑張る月がある。

平井:知り合いで200連勤してお金溜めて、そのあとに芝居やるって人がいた。楽しいから苦じゃないって。僕は寝ないで映像を編集するとかは全然大丈夫だったからコロナ前はフリーでやっていた。休みを会社に左右されたくなかった。

伊藤:「寝ないで」っていうのが何歳までできるのか?もちろん人によって20でも無理だったりするし、30でも大丈夫って人もいますけど。

平井:人によって頑張れるところは違うので、帳尻を合わせられるところを見つけるのがベターなのでは。

升味:お金問題で考えると、助成金もらうとなると1年前には企画書があったほうがよくて、そうなると結構長いスパンで考える必要がある。3年間の期間のものもあるから、そこに向かってどう自分を積み重ねていくのかを考える機会にもなって良い。
ただ、総額の50%助成みたいな場合もあるので、そうなると当たり前だけど、半分は自分で稼がなきゃならない。俳優さんやスタッフの人件費はどうするのかとか、物価も上がるし電気代も上がるし、フリーランスの人はインボイスも始まるから、今持続可能がマジで難しくて。
主宰の範囲で言えば、契約や保険をどうするかとかもあるし。ソロユニットだと特にマンパワーに限界があるのでそれをどうするかが問題です


寺原:年を重ねると生活のほうに重きをおくのは仕方ない。そうすると懇意にしてるスタッフが離れていったりとかもある。
地元札幌の劇団で、全員が就職している団体がある。演劇活動に理解がある会社に就職する(見つける)ことが、続ける為に自分でお金を確保するという意味ではかなり理想系なのでは?

平井:理解のあるアルバイトと理解のある会社はどう違うのか?

伊藤:会社によるよね。

寺原:安定した収入と、稽古ができる時間。

平井:安定した収入がそもそも僕らの世代でガクンと下がるから…。周りも奨学金がある人もいるし、ある程度就職するための手段(資格を取ったり)として大学で勉強した人はいいかもしれないけど、いきなり25歳になって考え始めるのは遅いかもしれない。都合がいいなとなってしまうかも。

齊藤の感想
就職すると演劇を辞めなくてはならないのか問題。演劇や表現分野前半が不安定なことは承知の上で、それでも安定した収入を得たいと思うのは間違っているのだろうか?と思いました。表現分野を目指した時点で「生活できない」「食っていけない」と言われる今の日本の現状は、本当にどうしようもないものなのかと。
芸術文化は国の安定の上に立っている産業なので、今はどうしても「現状の中でどう生き残るか」という文脈でしか考えられないですけど、現状のシステムは一体どうすれば変わるのかと、演劇を志し始めた時から私はずっと考え続けています。
とはいえ、寺原さんが「全員が就職している劇団」の話をしていましたが、私も、安定した収入を得たいのであれば、演劇に理解ある会社に勤めた上で演劇を続けるのが今現在では1番理想なのではないかと感じました。

演劇と音楽の違い〜音楽はめちゃめちゃ仲が悪くてもなんとかなる〜


石川:お金を稼ぐと言う点で言うと、私は一応音大で教職をとったので、音楽の先生にはなれるんですよ。実際に非常勤講師の先生でお芝居やっていたりとか歌手として活動している人が結構いたので、自分はまだ希望を持っているというか。まだまだ全然これからだぜと思っているというか。
もともとポジティブなのもあって、今丁度大学を卒業して1年なんですけど、オーディションとかを探して舞台にも立てて、1年で結構色々できたなと思っているので、私は楽器もあるので25になったらもう少し色々なことができるなと思っています。

平井:個人的な興味なんですが、楽器をやられているということで、自分で楽団作ったりは考えなかったんですか?

石川:全く考えなかったです。それこそ人間関係上手くいって、継続的にやれてるサークル楽団もありますけど、それこそ「○○劇団所属」みたいな人はいないです。
演劇と違って、音楽はドライなんです。音楽はめちゃめちゃ仲が悪くてもどうにかなる。オケの合奏とかも演奏終ったら楽器仕舞って早く帰ろ、みたいな。
演劇は人間関係でわちゃわちゃするのが結構あると思うのですが、音楽は仲が悪くても別に良い。また、演劇とかは稽古すればするほど良いみたいなところがあるのかなと思うんですが、音楽の人ってできるだけ合わせの時間を削ろうとする。「この曲だったらこれくらいの時間で良いよね」「これもう合わせなくっていいんじゃない?」とか。演劇はその逆というか。それが違うなって。

升味:音楽だとある程度音楽の理論だったり共通言語があると思うけど、演劇は出自がバラバラなので、何をやりたいのか何故それをするのかとか、そのすり合わせで時間がかかるのかな。

石川:音楽にももちろん演出家みたいな、全体の方向性を決める人はいるんですけど、それでいうと音楽の人は折れるのが早いし、譲るのが早いんですよ。早くまとめる方向に持っていく人が多いのでは。たまに頑固な人もいるけどそれよりも譲る人の方が多い。

荻山:演劇はどうしても新作主義というか、それだとどうしても準備に時間がかかってしまう。なんか海外とかだと「自分はシェイクスピアのこの役専門です」と言う人もいたりして、それだとサッと入ってきて「今回はこの演出ね」って聞いたらすぐできるみたいな。

石川:音楽は自分の持ち曲があるので、みんなそんな感じです。

荻山:ここは食べられている人が多そうっていうのは、レパートリーが多い団体なのかなって。劇団四季とかもそうかなって。

寺原:レパートリーを持っていると固定客が付くし、役者をもっとアイドル的に売ればいいのになって思ったりもします。みんながみんなやれってことじゃないけど、ちゃんとお客さんを掴めるマーケティングだったりというのは学ばなきゃと思う。

音楽業界から学べるあれこれ

荻山:音楽から学べるところはないかなあ。楽譜があるってホント素晴らしいなと。古典として有名な曲があるから「あの曲をこうやってアレンジするんだ」という楽しみ方もあるし。

石川:演劇だと、当日この役が抜けたら中止…っていうのがあるとおもいますけど、正直覚えなければいけないことはないって言うか。演劇で言うと台本持っている状態だし。音楽もプログラムには名前とか書かれますけど、正直誰でも良いというか。

荻山:カルテットで1人消えると影響度は凄いかもしれないけど、オーケストラだとそれが薄まる感じがありますよね。
岩井秀人さんのいきなり本読みとか、俳優さんを一日だけブッキングすればいいから効率も良いし、とても面白いし。台本を覚えるのではなく、セッションを楽しむ風にすればいいのではないか。

齊藤の感想
音楽畑の石川さんの話はとても面白かったです。確かに音楽は基本的に暗譜する必要がないので、誰かが欠けても代わりの人がカバーできるというのは素晴らしいなと感じました。
役者主義だと「あなたの代わりは誰もいないんだ!」となってしまいますけど、作品主義であれば言い方はあれですが「あなたの代わりはいくらでもいる!」ということですもんね。クラシックは「楽譜」という揺るぎない共通言語があるゆえに、ディレクションの調整があったとしてもすり合わせに時間がかからない。なんならできるだけ合わせる時間を削ろうとするというのはすごく興味深かったです。
演劇で同じような状況でやれるのは朗読劇かなと思いますが、やはり朗読劇でも作品<演者の側面が大きいような気がします。クラシックのように「この曲を聴くために行く」という風にはならないのはなぜかと考えた時に、「朗読劇」はジャンルとして新しいからなのではと思います。
圧倒的な知名度を誇るシェイクスピアなどの古典はとにかくひとつひとつのセリフが長く、朗読劇に適さない。朗読劇にはちゃんと朗読劇用のホンと技術が必要で、それが育たない限りは、どうしたって役者主義にならざるを得ないですよね。だからこそ寺原さんが言ったように、役者をアイドル的に売ることは、広報戦略として大切なことだと思います。

制作サイドの本音


荻山演劇のプロデューサーが育つ土壌がないように感じました。その人が一人前になるまでステップアップしていくまでの道がない。自分の劇団が失敗しても良いプロデュース公演がもっとあったら成長できるのでは?人材が育つのでは?
僕が知っている範囲だと、できる制作さんは大抵若い時にプロの現場にスッと入って、そこで視界が広がっている。「こういうふうになるとこうなるんだ」って分かるだけで全然違うので。「ここまで行けるんだ自分」て思うことが必要なんだなと。
あとは、やっぱり、やる人と売る人が一緒なのが無理があるんですよ。

升味:主宰としては、集客に関して、どこまでが俳優の仕事なのかって考えたりします。
集客が0とか1桁だと「この作品あんまり好きじゃないのかな?」って思ってやっぱりちょっと傷つきます。笑
その一方で、自発的に60人以上とかお客様を呼んでくれる俳優さんもいらっしゃいます。
理想は、劇団として、何百人とかお客様を呼べたらいいけど、でもそれは現状かなり無理がある気がして…。
集客力は演技力や外見と並んで俳優の武器になることは事実だし、
勿論お客様を呼んで欲しい気持ちはあるけど、それが俳優さんの不要なプレッシャーになったら嫌だなって思います。

:本当は、友人以外のところから呼べればいいと思う。

伊藤:演劇界隈だけで回すのは本当に不健全だと思うけど…。

:義務感で芝居を観に行くのはホント辛い。面白ければいいんだけど。

荻山マームとジプシーの制作の林さんの話で面白かったのが、演劇に近い他ジャンルの人とコラボするっていうのがあって。それだとその人のファンの人が、自分の劇団の作品に触れられる、広がっていくという良さがあるなと。

寺原:絵画だとかそういう人たちとコラボしてチケットを売っていくのは有りだなと思います。やれるんだったらやったほうがいいなって思います。
最後に、企画制作に関する意見交換会みたいなものができたらいいんじゃないかって思います。どうやったら売り込めるのか、こういうことがやりたいんだけど、どうすれば黒字にできるかみたいな。助成金も音楽の方が種類も多かったりするので。

平井映像の助成金お勧めです。演劇を上演するんだけど、それでドキュメンタリーも撮りますみたいな。

齊藤の感想
結局のところ、演劇を創る人間と演劇を観る人間が少ない。演劇人口が少ないから、小さな世界の中でお客さんやスタッフを奪い合わなければならない。これです。
とても狭い演劇業界に、どうしたら人を連れてこられるのか。(チケット価格を下げる以外の方法で)外部のジャンルの人たちをどう呼び込むか。それを具体的に考えなければならないのだと思います。

まとめ

……さて、ほんの一部ですが、私が聞いていて気になった座談会の内容を書き起こしてみました。始めに優花さんが言ったように、「30を越えた時にそこに立っているかどうか」が私も重要だと思いますので、今はどんな形にせよ頑張って演劇と関わっていれば、きっと気が付いたらその時になっているでしょう。このレポートを書いていることも将来の私にとってきっと意味があるはず。先輩たちがなんとか立っていられるのなら、私にだってできるはずだと、少し先を歩く先輩たちの背中を見ながら決意を新たにしました。