演劇ネットワークぱちぱちメンバー、内田颯太さん(24歳)による、インスタレーション作品が2023年7月17日~21日に公開されました。
映像出演した、メンバーの奥山樹生さん(23歳)と内田さんによる、本企画の振り返りをレポートします。
概要
企画のはじまり
───内田さんは、大学では写真を学んでいましたが、今回のような企画をやってみようと思ったきっかけは?
内田
これまで、ひとりで創作することが多かったので、他の人と一緒に創作してみたかったのが一番の理由です。インスタレーションは2作目ですが、他の人と一緒に創作するのは今回が初めてです。自分で表現するよりも、他の人が表現する方が面白いと思ったからです。
───もともと「戦より無限遠の草踏み」というタイトルで進めてきました。どういうところからこのタイトルは来たのか?
内田
作品の内容を考えた上で、歌人の岡井隆さんの作品「水平に角を構えて山羊たちて戦より無限遠の草踏み」から取りました。なんでそうしたかというと、岡井隆さんが、今回の作品の軸となっていた天皇、皇族の、和歌の相談役を務めていらっしゃったということもあり、また、戦後っぽいと感じたことがあります。
───奥山樹生さんに出演を依頼した経緯は?
内田
演劇ネットワークぱちぱちで出会ったのがきっかけで、オファーしました。落語の経験があるので、作品に力を貸してほしいと思いました。
奥山
僕が出演しようと思ったのは、内田さんのことをほとんど知らなかったからこそ、興味があったということ。また、声をかけてもらって、繋がりが生まれて、自分の中で新しく気付きが生まれるのを期待したということが理由です。
稽古について
───2023年1月から、計9回、八王子で稽古および撮影をしました。稽古中に感じたことを教えてください。
内田
やってみたいこと、思いついたことを、人と一緒に試してみることができて面白かったです。人と創るというのはこういうことか、と。演出を経験したと思っています。こっちでいいのか、こっちじゃなさそうだな、こっちにいこうかなみたいに、繰り返してやって、手間が多くて、スッとすぐ完成しないというところがよかった。
奥山
ここから先どうなるの?ってわからないままやっていました(笑)初回に撮影した時(1月)で、もう完成なのかなと思っていたのですが、これで終わりじゃなかった(笑)戯曲を渡されてある程度完成形が見えている状態で、作りましょう、ということじゃなくて、今回一番思ったのは、内田さんが思ったことを鉛筆で書き出していくのを、自分が鉛筆になった気持ちだったな、と。
自分がこう思うからこういうことを試してみようというより、内田さんの言葉で身体を動かしたときに、内田さんの中になにかが生まれるのではというほのかな希望を抱いている感じ。
そうなると、自分の主体性というものがわからなくなってくると思うんですが、それでも、内田さんとの作業の中で、自分の身体が固くなっているとか、他の方が稽古場にいらして、一緒に動いてみたりした時に、気付きがあったり、用意したものがぜんぜん変わっていった。
自分の経験してきた稽古場と全然違って、何かが見つかるんじゃないかという希望と、自分の身体にはこういうことが起きているという発見があるというのが稽古の意義だったかも。
ただ内田さんと散歩して終わった日とかもあったりして(笑)これで稽古ということで一日歩いたけど、楽しかったけどこれで大丈夫かなって(笑)落語をしたことがあるということで呼ばれたけど、僕で大丈夫だったのか…
内田
奥山さんに出ていただいてよかったと思ってます。最初は、初めての人だし、しっかり演出プランを持っていくぞという気持ちでいたんですが、稽古を重ねていくうちに、そんなに固くならなくても、その場の流れで、何言ってもこたえてくれるという信頼関係が生まれたと思いました。
───出演者ではないゲストが稽古に参加したのも印象的でした。落語家の方や、意外だったのはコンタクトインプロ(複数人での即興身体パフォーマンス)をしているいかさんです。
内田
コンタクトインプロの方を呼んだのは、型にはめるのも面白くないなと思ったのと、もともとのプランはもともととして、人と創るということを大切にしたくて、声の方は手を入れていく必要をあまり感じていなかった(テキストは象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことばを使用)のに対して、身体の方はまだまだやりたいことがある気がしたので、知り合いのいかさんをお呼びしました。
奥山
コンタクトインプロのワークは、今回いかさんとやったのが、これまでで一番本格的でした。一番発見がありました。僕個人の身体について。最初は初対面の方だし警戒モードに入っていて、どう動いていけばいいかが難しくて、固めになっていたのに対して、2回目は、ほぐすために内田さんやいかさんが仕掛けてくれて。
個人の課題として、演技する時に、人とやり取りすることの感覚がつかめないというところがあったので、身体的な感覚でつかめたというか。他のところでも役に立つ。なるようになる、と感じられたのは収穫でした。
展示について
───タイトルが変わったのはどういうところから?
内田
最初は、「天皇」に焦点があって、つくりながら変わっていって。創作のきっかけは天皇の存在だったのですが。それが中心になるというわけでもないなと。『もしもしやさしさよ』というタイトルは、思いつきではあったのですが、人と創ってみたいという欲望。もしもし、と呼び掛けるという方向性。やさしさよ、は、なんだろうなあ。これだというところがないけど、重心がそちらになったという感じ。
───映像の撮影や稽古をしている時からは予想外のインスタレーションでした!奥山さん、どうでしたか?
奥山
展示を見に行って、最初にビールが使い捨てコップに入って入口に置いてあって、ドアを開けたらそれをこぼしちゃって。ほんとに僕は事故だと思って、そうしたら中にいた内田さんに「あ、そういうやつなんで」と言われて。言わせちゃったよ(笑)と。申し訳ない気持ち(笑)そのビールを拭く内田さんを見ながら不思議な気持ちになったんですけど。
それがあって、僕のビデオが隅に置いてあって、内田さんが常駐しているのを隔てて、マッサージ機とカレーが吊られているというのがあって。
全体の稽古を通して、内田さんにとって僕がどんな角度で、どのように見られているかわからなくて、素材として渡していた、それを稽古しながら内田さんの中で醸成されているのかなと思ったんですけど。すべての作品が、「僕ってこういうふうに思われているのかな?」って思っちゃって。
マッサージ機がカレーに届かないっていうのが、稽古での、悶絶しながら手が届かない僕みたいに見えて。自意識過剰なのかもしれないですけど、どこまでが、僕が内田さんに手渡したもので出来ているのか?全部を説明させちゃうのは野暮だと思うんですけど…参加した人間としてしか作品を見ることができなかったので、気になります。
内田
そうですね…自分でもわかっているわけではないんですけど…全部が稽古から出てきたもの、というのがスッキリしますね。映像が主軸ではあったと思います。見慣れないものが展示に出てきたのは、稽古とは別に、天皇関係のリサーチに行ってたりしてて、一番色濃く出ていたのは、千葉の成田の三里塚っていうところがあって、もともと天皇家の食料を作る御料牧場で、そのそばにある三里塚御料牧場記念館がとても印象的で。マッサージ機は乗馬のシーンっていうか。それらは稽古外ですね。でも、自分でもよくわかってない(笑)
奥山
どこまでが作品で作品じゃないかがわからないのがインスタレーションの醍醐味ですよね!お客さんからはどんな感想があったんですか?
内田
告知をあまりしなかったのですが…10数名ほど来場がありました。みんなビールの反応は同じでした(笑)同世代は、ぱちぱちメンバーのもりもりさんくらいで、年上の人が多かったです。みなさん、入口のビールのところは、「申し訳ない」っていう感じでした(笑)
カレーの匂いのこととか…あと、「身体を使ったコミュニケーションの感覚が面白いですね」という感想をもらいました。また、今回の作品は「相手に施す」というところから生まれる上下関係が気になって生まれたところがあるのですが、それについても指摘があって。
これからの目標
───内田さんの今後挑戦したいことはなんですか?
内田
自分でもよくわからない中でも、製作から展示までができたし、他の人と一緒に創るのが初めてだったけど、充実していました。これからも、人と一緒に創ることをしたいです。これから演者で演劇に出ることも決まっています。
すぐに、インスタレーション作品を作りたいとかはあんまりなくて、これまでやってきた写真とか映像とかで、ちょくちょく創りながら、今回やってみたことをさらに考えてみることをしたいです。
奥山
演劇に出るんですね!気になります…。
───改めて、タイトルの「やさしさ」について。最初の企画書から受けた印象だと、「天皇」が軸になっていることで、少しハードでした。それが、柔らかい言葉に置き換えられたことは、意外なようで、意外ではない感じがします。
奥山
最初の、少し硬いイメージのタイトルから、柔らかくなったのは、稽古で感じていた内田さんの姿がだんだん柔らかくなってきたのとリンクするという感じが…。内田さんのことはどうしても紐解きたくなってしまう。インスタレーションを見ても、受け身ではなく考えるというか。
内田
前回の展示もそうだったんですけど、こういう形態だと「読み解かれるべきもの」になると思って、それがイヤっていうことではないんですけど、まだまだ力が足りないな、という問題になっています。自分の中では必然があって創っているんですけど、そういう判断とか感覚、その必然がまだあんまり伝わらないんだろうな、と。物の背後にあるものを紐解こうという方向ではなく感じてもらえるようになりたい、と思います。
奥山
内田さんとしては、的確に届けるということを大切にするということだろうけど、内田さんにしか感じられないことを考える面白さもあると思います。稽古場でもそうだったし、展示を見てもそうだった。たまにはそういうのも創ってもらえたら嬉しいです!
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