座って見るだけが演劇か?ツアー型演劇『むかしむかし、あるお家に』創作レポート

これは、「演劇を続けるための環境作り」をミッションとした演劇ネットワークぱちぱちが企画制作したイベントのレポートです。(ライター:総合ディレクター中込遊里)

ツアー型演劇『むかしむかし、あるお家に~アイコとユウスケのだいぼうけん~』(八王子芸術祭参加)概要

上演日時

2023年9月23日、24日 (上演時間90分程度)

上演場所

星槎国際高等学校八王子学習センター・高尾キャンパス

入場料

一般 :1000円
0歳~25歳:無料(要申込)

来場者数

全5ステージ、65組、計181名(8割ほどが小学生以下を含むご家族連れ)

出演、スタッフ

構成

中村大地(屋根裏ハイツ)

作・演出 

「むかしむかし、あるお家に」出演者一同

プロデュース

中込遊里(一般社団法人AsoVo/鮭スペアレ)


出演 

本田椋(劇団 短距離男道ミサイル)、上埜すみれ(鮭スペアレ)、演劇ネットワークぱちぱちメンバーより 奥山樹生、椙田航平、寺原航苹、堀慎太郎、箕浦妃紗、宮本尚和、森口夏希、齋藤龍之介、久保田めい、野口沙希

舞台監督 田中舞音、若松美佑
照明 朝日一真
美術 北山聖子
衣装・道具 松尾曉那、箕浦妃紗
制作 一般社団法人AsoVo

主催 公益財団法人八王子市学園都市文化ふれあい財団

作品内容

フライヤー

フライヤーの裏面が「冒険の地図=上演スペース」

参加者は、「ミッションシート」を片手に、会場全体を劇場として自由に歩き回りながらミッションにチャレンジ。

すべてのミッションは「会場に住む妖怪と出会って遊ぶ」目的でデザインした。

構成

作品が生まれた背景

プロデューサーの思い

中込遊里(演出家/劇団鮭スペアレ代表/演劇ネットワークぱちぱち総合ディレクター)の「演劇の楽しさを幼少期から知ってほしい。だから、じっと座って見るだけではない、子どもがのびのびと遊びながら演劇を楽しめる場を作りたい」という思いから、2021年12月に八王子のいちょうホールにて初演。新型コロナウィルス対策のため、劇場での鑑賞バージョンとして可能な限り工夫をこらして上演した。

コロナ禍が落ち着いてきたため、劇場を飛び出して、当初からの願い「観客参加型」の演出がかなった。

会場選び

「八王子芸術祭」に参加するため、芸術祭2023年度の指定エリアである八王子・高尾地域で開催した。
ツアー型という形式に見合う会場を探して、高尾の自然の中に、劇場の他、宿泊もできる個性的な施設のある「星槎国際高等学校八王子学習センター・高尾キャンパス」との出会いがあった。

通信制高校のキャンパス内になぜそのような設備があるかというと、もともとは作家・俳優の眞山美保氏が代表の劇団「新制作座」が1963年に切り開いた拠点だからだ。現在は、新制作座と星槎国際高等学校が共存する空間になっている。そのある意味で奇妙な豊かさが本作品の世界観を支えている。

創作方法

劇作家・演出家の中村大地氏が、作品を貫くテーマ「目に見えないものを大切にする」と、「妖怪とタヌキ」が劇世界を作ることを定めた。稽古では、演出、出演者の分け隔てないコミュニケーションの中から具体的な登場キャラクターとシーンひとつひとつを作り上げていった。

そのために、上演場所での合宿という稽古スタイルがよく機能した。生活をともにしながらじっくりコミュニケーションを取ることで作品を生み出した。

また、上演場所への理解は創作に重要だった。ありがたいことに、新制作座の劇団員の方にお話を深く伺う機会を得られたのは作品の質の向上につながった。

来場者からの感想

•体験型演劇で、子どもが飽きずに見られました。(30代・小学校高学年1人・未就学児2人)

•ようかいがおもしろかった。みんながやさしくておもしろかった(幼稚園生)

•クイズなどもあり、子どもと楽しめた。(30代・小学校低学年1人・未就学児1人)

•毎年やってほしい!(小学校低学年1人・中学生以上2人)

•最後は物語の中に入ったようで感動した。(大学生)

成果と課題

一番の成果は、満員の来場者で、好評だったことである。「子どもと一緒に楽しむツアー型演劇」という企画の個性と、子どもの興味を惹きつける楽しいフライヤーが効果を発揮して、チケットが早期に完売した。

出演したぱちぱちメンバーからは以下の意見が得られた。

子どもたちの素直な反応や、全力で楽しむ姿、また、親の影に隠れちゃったり、照れくさそうにもじもじしてる姿、子どもの色々な側面を目の前で一緒に体験できることは、とても刺激にもなるし、過去の自分に重ねる瞬間もあったり、大切にしなきゃいけないことも改めて気づいたりできる。子どもが参加してくれる、子どもと一緒に体験できるところが、この企画のもっともいいところ。これからも続いていってほしい。

一方、創作チーム内で挙げられた課題は「準備がしにくいこと」だった。

様々な会場を歩く作品の形式がゆえ、天候に左右されて作品内容が変わること、それに伴って稽古のタイムテーブルが急遽変わることなどが負担になる。

また、観客の反応をもとに作品が進んでいくので、登場人物でもある観客が稽古場に不在という状態になる。それによって「本番にならないとわからないね…」となることも多く、決めごとが決まりきらないことが多かった。

さらに、創作チームにとって初めての作品形式だったため、創作方法も手探りで進めていったことも課題であった。誰がなにを決めて実行するか、が曖昧になって、準備不足につながった。

今後の展望

演劇の楽しさを幼少期から知る人が増えて演劇文化の普及に繋げるために、八王子市内での開催とともに全国展開していきたい。

演劇を楽しむためには、良い劇場があることが重要である。しかし、演劇専用の質の高い劇場は、全国に数少ない。

本作品の特徴は、劇場ではなくとも人が集まる場所があれば演劇の楽しさが詰まった作品を上演できることにある。また、演劇を見たことのない方にもお祭り感覚で参加することができて、観劇初体験のハードルを低くできる

今後、八王子市内での営業活動と並行して、地方の公共劇場や芸術祭、演劇祭に本作品を紹介することで、上演機会を増やしていく。