ユース世代が「自分にとっての演劇の続け方」を試す場「演劇ネットワークぱちぱち」のメンバーの活躍と魅力を、ぱちぱち制作の齊藤舞夕が紹介します。
松井ピコ(まついぴこ)
2002年11月23日生まれ21歳。千葉県の松戸市で生まれ育つ。
高校入学をきっかけに演劇部に入部し、演劇を始める。現在は桜美林大学芸術文化学群 演劇ダンス専修の3年生。
演劇パンクバンド「道徳ふあんしー」の作・演出・主宰。
※これは2023年12月に行ったインタビューです。
演劇を始めたきっかけ〜面白いものを見つけたい〜
齊藤
高校で演劇部に入ったきっかけは何かあるの?
松井
中学3年生の頃にお笑いにハマっていて、コントがやりたいなと思って、そしたら一番近い部活は演劇部かと思って入りました。
齊藤
へ〜!じゃあ、演劇がやりたいというよりかは、人を笑わすことに重きを置いたということ?
松井
そうです。
齊藤
それはコントを書きたかった?やりたかった?
松井
書きたかったし、やりたかったです。
齊藤
お笑いは、どういうところにハマったの?
松井
当時一番ハマっていたのがラーメンズで。
齊藤
おお!ラーメンズ!
松井
先生の影響とかで。だから結構演劇寄り。
齊藤
そうだよね。漫才とかじゃなくて、しっかり劇仕様でその中に演劇がある…みたいな。
松井
ああいうのをやりたいって思ったっていうか。世の中にはまだ面白いものがいっぱいあるって思って。それを、見つけたい。そんな感じだった気がします。
声が小さかった子ども時代
齊藤
どんな子ども時代でしたか?
松井
本が好きでしたね。これホントかどうか分からないんですけど、親が言うには、3歳でファーブル昆虫記を全部読んだって。
齊藤
おお〜〜!!漫画じゃなくて?本を?
松井
はい。子供用なんですけど。で、4歳でシートン動物記を全部読んだって。
齊藤
チョイスがさ…、なんでそこ(自然)なの(笑)
松井
多分買ってくれたんですよね。親族か、親か誰かが…。学者にしようとしてたのかもしれない…(笑)
齊藤
じゃ、大人しかったって感じ?
松井
そうですね。偏見ですけど「本が好きだと大人しい」っていうのは、でも実際そうで私の場合は。でも、人前に出たいという気持ちはゼロじゃなくて。
齊藤
うんうん。
松井
小学4年生か5年生のときに、2分の1成人式っていうのがあったんですよ。体育館の壇上に子どもたちが座って、反対側に親御さんがいっぱい座って。で、なぜか覚えてないんですけど、私が親に向かって最後「ありがとうございました」って言ってお辞儀をする役をやることになったんです。本番いざそれをやることになったら、親の方に一切声が届かなかったみたいで、声がちっちゃすぎて。で、生徒も親もザワザワ…みたいな。「今言った?言ったよね?」みたいになって。それがちょっとトラウマみたいなことに…。まあトラウマって言うほど大げさなもんじゃないんですけど、今でも覚えているくらい、すごく辛い空間だったんですよね。
齊藤
そこきっかけで自分を客観的に見るきっかけになったとか、人前に出たいけど、声が小さいからこのままじゃ駄目だっていう風になったってこと?
松井
私は声がちっちゃいんだって。
齊藤
そういう認識をしたんだね。
松井
だからまさか演劇をやることになるとは思わなかったですね。
ぱちぱちに参加したきっかけ
松井
大学に入ってからも、ずっと脚本演出の公演をしたかったんですけど、中々上手くいかなくて、同級生の永高涼に相談したら、ぱちぱちで探してみればって言われて、それで入りました。
齊藤
へえ〜。それは大学何年生の時?
松井
大学2年ですね。
齊藤
参加してみてどうでした?
松井
スタッフがとにかく足りなくて、私の周りに。で、音響照明の募集をしたら森口さんが来てくれて。そこからずっと一緒にやってくれて。本当にありがたい。ぱちぱちがなかったら、私は一回も公演をできていないです。
齊藤
おお!そうなんだ。
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「道徳ふあんしー」の旗揚げ公演と第2回公演の照明を担当した森口夏希さんがフィーチャーされた前回のぱちぱちメンバーズファイルはこちら↓
松井さんは2022年12月からぱちぱちに参加したのですが、なんと参加した翌日にはオンラインで4月の上演に向けての相談会が立ちあがるという凄まじい行動力を持ったメンバーでした。この時点で台本や企画書が既にあり、その熱意のままに松井さんは翌年4月に見事、道徳ふあんしーの旗揚げ公演を行いました。
また当時、松井さんが「自主公演を打ちたい!」と声を上げた時のことを、ぱちぱち総合ディレクターの中込さんは以下のように書いています。
中込遊里 ディレクターメッセージ2022より『今年度のぱちぱちの活動の中で特に印象的だったことがありました。
12月にオンラインで開催した「なんとしても来年4月に自作の脚本で初めての演劇公演を打ちたい松井さんを応援しようの会」でのこと。
タイトルのままの企画で、大学1年の松井さんの悩みを年上のメンバー2人が聞き、劇場の予約方法や、人をどう集めるかなどのアドバイスをしました。
いろいろな苦労があった松井さんでしたが、無事に4月に仲間を集めて公演ができたようです。私としてもとても嬉しかったのですが、なにより心が動かされたことがあります。
企画の話をしながら、松井さんが「演劇の話ができるというだけでとても嬉しい」と言ってくれたことです。
演劇をしたい、という切実な気持ちが伝わってきた瞬間でした。』
演劇公演以外の企画をやってみたい
齊藤
現在やっていることを教えて下さい。
松井
自分の脚本演出主宰の劇団「道徳ふあんしー」で、公演をしてます。
齊藤
じゃあ基本的に、ぱちぱちはスタッフを募集するために参加した感じで、そこから今後ぱちぱちをどう活用していきたいとか、ある?
松井
なにか企画はやってみたいなとは思います。自分の。余裕ができたら。
齊藤
企画というのは、演劇公演以外のってこと?
松井
はい。公演以外。
「道徳ふあんしー」作・演出・主宰として
齊藤
将来の夢はありますか?
松井
作家ですね。
齊藤
演劇の?
松井
演劇じゃなくても。
齊藤
好きな作家さんはいますか?
松井
子どもの頃からは(小説家の)はやみねかおるさんが大好きで…。
齊藤
ああ〜〜!!
松井
ミステリーですね。
齊藤
今「道徳ふあんしー」ではどういう作品を扱ってるの?
松井
ミステリー要素はゼロで。私ともう1人いてメンバーが。私がその時に書けるもの書きたいものを書いて、上演するという感じですね。で、そのテーマは「愛」とか、「反資本主義」とか。人間を重視した作品ですかね。
齊藤
その時書けるものっていうのは、その時松井さんが興味があるものなのか、その当時の時事的な問題をやったりとかってこと?
松井
それは、どちらかというと前者の方。
齊藤
その興味っていうのは毎回どういう風に生まれるの?
松井
うーーん、今書いてって言われたら、なんかあるんですよ絶対。それを書きます。
齊藤
その、自分の中に何かあるものを、探っていって、それを徐々に言語化していって(っていうこと)?
松井
そうですね。最近興味があるものは、そうかもしれないです。
齊藤
(脚本は)どういう書き方してるの?めっちゃ気になる。
松井
どうやって書いてるのか、思い出せないです。
齊藤
(笑)書いてるとき?
松井
着想する瞬間のこと。何個も話のストックがあって、で、この中でやるとしたらこれかなっていうのもあります。
齊藤
めっちゃそれってなんか、作家っぽい…!アイデアノート的な。
松井
メモ取ってはいます。
齊藤
それってどこから書き始めるの?
松井
一番最初です。題名と、キャラクターの名前が決まらないと中々書けなくて。
齊藤
へぇ〜!題名から書くんだ?
松井
良い題名がないと、駄目です。まずあらすじはあります。このあらすじに題名を付けるとしたらなにか、っていう。
前回公演は、「VIVI」って書いてバイバイって読む題名だったんですけど、あれは、資本主義がテーマで、暴力・売り買い・性の売買、この3つ(が要素)だったんですよ。それでどんな題名にしたらいいか。暴力といえばバイオレンス。バイオレンス・バイオレンス。略してバイバイ、これしかないっていうことです。それを英語にするとビビって読めますよね。だから主人公の名前はビビ。それはすごく、すぐ決まって良かったです。
齊藤
へぇ〜。その要素っていうのは作品の中で開示されるもの?
松井
開示されます。でも性の売買っていうのは開示されていなかったかもしれない。
齊藤
観た人が気付く人もいれば気付かない人もいるみたいな。
松井
そうです。
演劇はある種のデモ活動
齊藤
どんな作品だったんだろう。観たいな!
松井
あ〜、映像がなくて。私も映像ほしいんですけど…。
齊藤
映像とか制作はいないのか!
松井
制作いなくて…。
齊藤
制作を!ぱちぱちで呼ぶのだ!募集をするのだ!
松井
確かに…(笑)
齊藤
写真とか、残せるものは残しておいたほうが良いよ。今後再演とかするならまだしも。
松井
映像は…。もう1人の(メンバーの)子がすごい現場主義で、映像をだれにも見せたくないらしいんです。
齊藤
分かるよ…分かる。分かるよ、その考え方。
松井
私も自分が出てるときは見たくないです。人が出てるやつは全然見ます。
齊藤
すごい嫌だろうけど、自分のキャリアとか、「こういう作品を作りました」って残すために、せめて写真は撮っといたほうがいいよ!
松井
今後その団体のアピールとか、団体の成長していくためとかっていうのは分かるんですけど、テーマを反資本主義にしてるぐらいなんで、あんまり団体として、こうなりたいとかはないんですよね。
齊藤
団体としてのテーマが「反資本主義」なの?
松井
あ、違います。でも私ももうひとり(のメンバー)も、どっちもそういう考え方が結構あって、だから売れたいっていうのは一切ない。
齊藤
そうだね、売れたいっていうのは資本主義的な考え方だもんね。
松井
まあ大きくなれればいいですけど…いや、分からないですもう。先のことは。
齊藤
さっき座付き作家とかに限らず、小説とかの作家っていう話も出たけど、劇団に対してどうしていこうみたいな設計はありますか?
松井
ずっとやれればいいなとは思います。私は面白い演劇をやれる自信はあるので、それを面白いと思ってくれる人に、いっぱい出会えたらいいな。そう思います。
演劇を何でやるのかっていうと、相手を変化させるためだと思っていて、役者同士もそうだし、これは私の学校の教授がすごい言うんですけど、「演劇は変化だ」。演劇作品が観客を変化させるっていうのが主で、で、私は自分の思想…「愛」っていうのはこういう意味もあるんじゃないか。資本主義だとみんな思っているけど、そうじゃない道もあるかも。そういう可能性の提案として演劇をやってて。で、それを観に来てくれた人に「確かにな」って思ってもらうことを目標にしているので。ある種のデモ(活動)、なのかもしれないです。
演劇にハマったきっかけ
松井
演劇にハマったきっかけを言いそびれちゃったんですけど、高校1年生の春大会に私は観に行けなくて、他の学校と一緒にやる、お互いに観るってイベントなんですけど、観に行った部員たちがみんな同じこと言うんですよ。「『贋作マクベス』が凄かった」。「『贋作マクベス』が面白かった」。どんだけ面白いんだと思って、で、調べたら、贋作マクベス自体は観れなかったんですけど、それを書いた人が今でも演劇をやっている。それが柿喰う客の中屋敷法仁さん。それで柿喰う客の映像をいっぱい見たんですよ。したら、ハマっちゃって演劇に。
齊藤
ほー!そうなんだ。なるほどね、コントを好きになって演劇部に入って、そこから「演劇」というのにハマったきっかけが…。
松井
柿喰う客という劇団です。
齊藤
そっかー!
松井
演劇ってこんな可能性があるんだって思って。面白いじゃんってなったんですよね。
松井ピコさん、沢山のお話をありがとうございました!
脚本の書き方についての話や、演劇についての考え方の話がとても興味深く、静かだけれど、とても熱いものを持っている人だなと感じました。
次回の「ぱちぱちメンバーズファイル」は6月ごろの公開です。お楽しみに!
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