多摩ニュータウンにご当地ヒーローを誕生させたい!『多摩ニュータウンヒーロー部』発足レポート

これは、「演劇を続けるための環境作り」をミッションとした演劇ネットワークぱちぱちが企画制作したイベントのレポートです。(ライター:総合ディレクター中込遊里、プロデューサー荻山恭規)

多摩ニュータウンで生まれ育ったから。「多摩ニュータウンヒーロー部」発足のあゆみ

ディレクター・奥山樹生の思い

ぱちぱちメンバーの奥山樹生(おくやまいつき)が、多摩美術大学在学中から構想していたのが多摩ニュータウンにご当地ヒーローを誕生させること。

自身が多摩ニュータウンで生まれ育ったためである。

いつきにはこのような思いがあった。


ヒーローは架空のもの。でも、みんなでワクワクしながら創作すれば、自分たちを勇気づけてくれる大切な現実になります。
自分が高校から演劇を始め、現在まで演劇を続けてきた理由はそこに有ります。

演技や作劇などの創作を通して湧き立つ感情は紛れも無い現実です。
だからこそ、ヒーローという存在が多摩ニュータウンを盛り上げることができると信じています。

「多摩ニュータウンヒーロー部」発足の理由

いつきの思いを受けて、ぱちぱち総合ディレクターの中込遊里が2022年に「多摩ニュータウンヒーロー部」を構想した。

ご当地ヒーローは地域に愛される存在である。そのためには地域の人たちがヒーローを応援しやすい場所が必要だ。だったら、演劇作品を活動の軸とした劇団などのチームよりもゆるやかに集まれる「部活動」の形式が多くの人に開かれやすいのではないだろうか。

また、ユース世代が集まる演劇ネットワークぱちぱちではあるが、「大人の部活」を目指した。

イメージしたのは地域住民が集まるお祭りや野球大会。そこではいろいろな人が自らの意思で集まる。

ヒーロー部でも、得意なこと、やってみたいことを軸にする。たとえば作るのが好きな人は衣装や道具を作る。料理が得意な人はお弁当を作ったり…。そして、ヒーローになってみたい人が演技やアクションの経験がなくてもヒーローになれる…!そんな、本業の合間に楽しめる「大人の部活」。

多摩ニュータウンに親しみのある人たちが、いつきの言う「創作を通して湧き立つ感情」を共有しながらヒーローを生み出していくことができたら、多摩ニュータウンに創作を通したコミュニティが生まれる。結果、多摩ニュータウンが創作の力で盛り上がるのではないだろうか。

部員が集まってきた!

いつきがデザインした立ち上げ部員募集のチラシ。

この募集にあたり、まずは演劇ネットワークぱちぱちメンバーのすみすや、日野市中央公民館のくにさんが立ち上げ部員として参加した。

ここから、多摩ニュータウンに馴染みがあるなしに関わらず、いつきの活動に賛同した演劇ネットワークぱちぱちメンバーやその友達が集まりはじめた。

どのような人たちが集まってきたのかは次の章で書く。

多摩ニュータウンマンが初のヒーローショーを開催するまでの道のり

「タマネオン」から「多摩ニュータウンマン」に改名

多摩ニュータウンのご当地ヒーローを生み出すにあたり、まずはコンセプトやビジュアル、ネーミングを考える。

写真の黒板は2023年6月のアイディア会議の記録。

コンセプトの「人の心をつなぐ」「橋渡し」「思いやり」はこの時出来上がった。

違うのは名前。最初は「タマネオン」だった。

「多摩ニュータウンマン」命名は、五十部裕明氏(いそべ)のアドバイスに基づいた。

いそべは、音楽家であり、所沢市のご当地ヒーロー「トコロザワン」の生みの親。
中込の紹介によりいつきがトコロザワンの現場に赴いたことが繋がり、いそべがアドバイザーとして部員になった。

奥山樹生による「トコロザワン」収録参加のレポートはこちら(外部サイトnoteに飛びます)→

https://note.com/engeki_8888/n/n968525522be2

いそべによると、ご当地ヒーローのポイントは“出オチ”として地域住民に温かく受け入れられるということ。「ええ~、自分の町にご当地ヒーローがいるんだ!」と、驚きクスクス笑えることが大切だという。そのためにはわかりやすさが重要。だから「多摩ニュータウン」の「マン」。

いつきはじめ、部員は目から鱗だった。なので、かっこよくて気に入っていた「タマネオン」にはサヨナラした。

多摩ニュータウンマン、「TAMATAMAフェス」でデビュー!

多摩ニュータウンマンのデビュー場所を作ったのもいそべだった。

2023年10月21日、22日に多摩市で開催された「TAMATAMAフェス」内のイベント「宇宙論☆講座のおばけ屋敷」に出演。

多摩ニュータウンマンのテーマソングのサビができた。作詞いつき、作曲いそべ。多摩ニュータウンマンの姿も初登場。まずは自作のお面と、衣装はジャージ。

このイベントを機にすずはるが入部。高校演劇部時代のスキルを活かして音響操作やマスクなどの制作で活躍!

多摩ニュータウンマン登場シーン。お化け屋敷の順路案内もしている。(多摩ニュータウンマンの中の人:いつき。撮影:中込。レポーター:中込の7歳の娘)

1日あたりだいたい500人の来場者があったので、2日間で計1000名の来場者に多摩ニュータウンマンの存在を知らしめることになる。Xのフォロワー数もアップ。

「多摩ニュータウンマン」は、どこのご当地ヒーロー?

「TAMATAMAフェス」での活動と同時期に、「多摩ニュータウンヒーロー部」の活動の根幹を揺るがすような大きな問題が発生していた。

現在「多摩ニュータウンヒーロー部」は、八王子市から頂いている補助金で活動している演劇ネットワークぱちぱちの活動である。そして多摩ニュータウンというのは、八王子市の一部を含む、4つの市を跨る区域のことである。

その場合、「多摩ニュータウンマン」の活動を、八王子市だけが支えているという形はおかしいのではないか?
演劇ネットワークぱちぱちを主催している(公財)八王子市学園都市文化ふれあい財団からするどい指摘が入った。

確かにすぎる指摘だ。

けれども、まだ活動実績のない「多摩ニュータウンマン」を、他の市が支えてくれるはずもない。いっそ、演劇ネットワークぱちぱちの活動ではなく独立して自分たちでお金を出し合って活動するのが良いのではなかろうか。正直、9割くらいは演劇ネットワークぱちぱちから独立する方向で話が進んでいた。

だがしかし、ピンチはチャンス。ここで全く新しい発想が生まれた。

「多摩ニュータウンマン」だけで活動をしていくのではなく、イベントを行うその土地土地でヒーローを生み出して行けばよいのではなかろうか。そうやって生まれたご当地ヒーローたちをまとめる存在を「多摩ニュータウンマン」とする。まずは八王子で、イベントを行う場所に特化したヒーローを生み出し、実績ができたら他市でもヒーローを生み出すべく連携をすすめていく。そして、八王子市内でイベントをやるときに限り、八王子市の補助金を使う。という整理でどうですかね?

それは、「多摩ニュータウンヒーロー部」としての、ギリギリの切り返しだった。

結果、「そういうことなら…」とギリギリでOKをもらうことができた。良かった。

そしてこの議論が後に「桑都仮面」「オクトーレマスク」を生み出すことに繋がっていくのであった。

多摩ニュータウンマン、ミニヒーローショー開催!with「桑都仮面」

翌月11月4日には、「ミニヒーローショー」を開催。

日本遺産フェスティバル in 桑都(そうと)・八王子のキッズ向けのイベントの上演依頼を受けたのだ。

上演依頼があったのが9月末。準備期間が限られている。まだヒーローショーはできないので、ミニヒーローショーだ!

ということで、いつきが人形劇バージョンのヒーローショーを考案。

上演場所は八王子のJ:COMホール。八王子は織物で栄えた町=桑都ということで、あらたなヒーロー「桑都仮面(そうとかめん)」が爆誕。

多摩ニュータウンマンは桑都仮面とともにヒールキャラ「サエギロー」と戦うのだ。

客席とヒーローたちをつなげる役も爆誕。その名も「かいこのまゆちゃん」。桑を食べて絹糸を出す、桑都仮面にはなくてはならない存在。

見よ、このたくさんのお客様を。

1日3ステージで、およそ100人の方に楽しんでいただいた。(ぱちぱちキッズ向け演劇「きょうげんあそび」と同時上演)

このイベントでぱちぱちメンバーのもっちゃんと、すみすの友達のFちゃんが部員になる。

ミニとはいえ、ヒーローショーを開催してわかったこと。

ヒーローショーは老若男女を集める。そして老若男女を魅了する。客席から拍手や歓声などの大きな反応があるので、演じるのがとても楽しい。

一方、ミニとはいえ初のヒーローショー開催で、課題も生まれた。それは最後の章に書く。

祝・多摩ニュータウンマンヒーローショー開催!with「オクトーレマスク」

そして、多摩ニュータウンヒーロー部発足の物語(2023年度)は最終章へ…

2024年2月23日開催「ふれあい子どもまつり」にて、初めてのヒーローショーをとうとう開催!

※本番映像準備中※

上演場所は八王子駅前のショッピングセンター「八王子オクトーレ」

ということで、オクトーレの平和を護る「オクトーレマスク」爆誕。

桑都仮面との共闘後の11月から2月のヒーローショー開催までに様々なステップがあった。

その大充実のステップをテンポよくご紹介します。

①「ご当地ヒーローを生み出そう!ワークショップ」

ぱちぱちの年度替わりのイベント「ぱちぱち a GOGO!」内でのワークショップ。

「あなたに馴染みのある場所(街など)のご当地ヒーローを生み出そう!」
ぱちぱちメンバーやぱちぱちを応援してくれている大人の方が参加した。

ワークショップは好評で、「学校の地理の授業でやったらいいのでは」という提言もあったくらい。そしてあまりに魅力的なご当地キャラが生まれたので、なにかの機会に紹介したい。

これを機に、ぱちぱちメンバーのもりもりが入部。

②ヒーローショーの録音

上演台本は、いつきが軸を作り、部員で協力して書く。上演台本ができたら、演劇ではなくヒーローショーの醍醐味として「声の録音」がある。ヒーローショー当日は音楽や効果音とともに声を入れて編集した音源を流すのだ。

平行して、多摩ニュータウンマンとオクトーレマスクのテーマソングを作る。作詞:いつき、作曲:いそべ。

めちゃくちゃエモい曲ができあがる。

③ヒーロースーツを作る(作り方を習う)

ヒーローショーに向けて念願のヒーロースーツを作るのだが、作り方がよくわからない。

困っていたところ、ぱちぱちメンバーのまおすけが同じ大学のnaoを紹介してくれた。
naoはサークルでヒーロースーツを作っているばかりか、アクションを勉強して様々活躍している。

naoの入部により、溢れんばかりの知識を手に入れた多摩ニュータウンヒーロー部。

スケジュールと予算の関係で今回はマスクのみ作ることに。

オクトーレロゴ部分を外した状態

オクトーレマスクのマスク。中に入る演者の視覚を確保するため細かく工夫した。

ちなみに、口がないデザインが特徴だったが、それが怖かったらしく本番では小さい子どもに泣かれた。

楽屋での一コマ

顔だけを覆う仮面だった多摩ニュータウンマンも、360度の立体マスクに。すみす、もっちゃん、もりもり、いつきで製作。

衣装は作業着。多摩ニュータウンを汗水流してつくった作業員がヒーローになった姿を表している。

④そして、本番!しかしハプニングが…

本番を迎えるにあたり、ぱちぱちの2022年八王子ユースシアター参加で出会った平井寛人氏にスタッフ(映像撮影やいそべのアシスタント)をお願いする。いそべも音源の編集を完了。

ところが、ハプニングが。サエギローを演じる予定だったもっちゃんがご家庭の事情で急遽出演できなくなってしまったのだ。

慌ててぱちぱちメンバーに声をかけたところ、ほーりーが「本番の日空いております!」と連絡をくれた。

救いの神、降臨。さすが、演劇ネットワーク。素晴らしき演劇ネットワーク。

しかし…いくらなんでも、本番前日の稽古だけで間に合うのか…?

大丈夫。

なぜなら、台詞が録音だから。

ほーりーの演技が素晴らしいことは言うまでもないのだが、台詞が録音されていることで台詞を覚えなくてもいい安心感があった。これは演劇にはないヒーローショーの面白さだ。ハプニングにより改めて気が付いたのだった。

そして、本番当日。

悪の組織ダダメメ団から「ふれあい子どもまつり」を守る!
客席参加型のゲームパートも。
ショーの後の、写真撮影とふれあいタイム。主にファミリーのお客様が列をなして写真撮影してくれた。

1日3ステージ、計444名のご来場。八王子オクトーレのスタッフの方々にもとても喜んでいただけた。

ほーりーの他に、これまた急遽お手伝いしてくれたまおすけも入部。

このようにして、多摩ニュータウンヒーロー部は部員が増え、初のヒーローショーを開催。
多摩ニュータウンマンの物語は次のステージへ…。2024年度のヒーロー部をお楽しみに!

成果と課題、今後の展望

成果

イベント自体も大変盛り上がったが、一番の成果は奥山樹生の夢を中心として人々が集まり企画を進めたことである。

以下は、ぱちぱちのわーわーフェス(2023年12月23日開催。ぱちぱちメンバー一日体験)においてヒーロー部の活動紹介をした時の、部員の言葉。
いつきの人柄と企画の魅力に仲間が集まってきたことがわかる。


ヒーロー部に興味を持ったのは、部長のいつきさんの存在が大きかったです。

いつきさんとは僕が高校生のとき、一度舞台で共演する機会があり、そのときから素敵な方だなと感じていて、いつか一緒になにかできないかと考えていました。僕はもともとヒーローに興味があったわけではなかったのですが、企画書など拝見させてもらって、とっても面白いことになりそうだぞと第六感が働いたのを覚えています。


ヒーロー部は気軽に参加できる部活、という感じです。部員のみんなの雰囲気が好きで、おしゃべりが楽しくて仕方ないです。
ある意味癒されに行ってるのかもしれません。

(もっちゃん 大学1年)

大学でも地域創生を学んでいるため、ご当地ヒーローというワードに惹かれました。

その日来られる人で集まる写真好きのおじさん達の会みたいな、、趣味のひとつとして考えています。
イベントの重なる時が続くと学校とバイトとの両立が大変かも?と少し感じましたが、ヒーロー部は楽しくて好きなので苦ではないです!

活動を続けるためにも、もっと仲間が増えたら嬉しいです!

(すみす 大学2年)

課題と対策

一方、ヒーローショーなどの作品を作る過程で生まれた課題は「多摩ニュータウンマンのあるべき姿」の共有である。

立ち上げたばかりのチームで具体化されていない企画を進める時に必ずぶつかる課題といえる。

課題を改善すべく、11月のミニヒーローショーの後の部員での反省会で生まれたのが「ヒーローショーの極意」(画像↓クリックして拡大します)

「演技」「作品」「形式」に分けて、多摩ニュータウンマンショーの極意=あるべき姿を言葉にした。着実で大きな一歩。

これをもとに2月のヒーローショーが形作られた。

今後の展望

着実に進んでいる多摩ニュータウンヒーロー部だが、そのあるべき姿はまだぼやけている。

ひとつのイベントをつくる企画ではなく、ある環境=居場所をつくるのが「多摩ニュータウンヒーロー部」。
その壮大な道のりは始まったばかり。

とはいえ、2023年度のライジングはすさまじかった。集まった人々の魅力が反映された結果である。

部員の間では、プロモーションビデオをつくることや新たなヒーローの構想がすでになされている。

そして、部員を増やすことが一番の目標である。

最後に、部員になってほしい具体的な人とは…

都庁前で記念撮影。外国の方もたくさんいた。

2023年11月16日、多摩ニュータウンヒーロー部で東京都庁に行った。そう、多摩ニュータウン課の方に会いに。

東京都には多摩ニュータウン課なるものが存在するのだと本企画を通して初めて知った。

多摩ニュータウン課の方は快く迎えてくれ、2月のヒーローショーもご来場いただけた。

さあ多摩ニュータウン課のみなさま、多摩ニュータウンヒーロー部に入りませんか。