こんにちは!きょうげんあそびディレクターのまゆたそ(齊藤舞夕)です。


2024年9月28日(土)、JR八王子駅北口エリア・西放射線ロードを中心に行われた伝承のたまてばこ〜多摩伝統文化フェスティバル2024〜というイベントの一つとして、
桑都テラスにて「きょうげんあそび」のレパートリーの一つである『でんでんむし』と新作『こしにおいのり』を上演しました!
この記事では、当日の様子と、「きょうげんあそび」の課題を踏まえて今回上演した新作『こしにおいのり』がどのように完成まで向かっていったのかを、私まゆたそがディレクター視点でお届けいたします。
「きょうげんあそび」とは?
日本の伝統芸能である「狂言」を楽しく分かりやすく組み立て直し、創作した演劇作品のこと。対象は3歳〜小学2年生くらいまでの子どもです。
2021年、演劇ネットワークぱちぱちが発足して初めて上演した演劇公演です。詳しくは上演先募集の記事をご覧ください。
今回の上演が5回目の上演となります。
本番当日の様子



朝はちょっとだけ雨模様でしたが、本番の時間にはすっかり晴れてきて、無事に13:00〜13:30、16:30〜17:00の2回とも公演を終えることができました!
当日の上演の様子を八王子テレビさんが動画に残してくださったので是非ご覧ください。
『こしにおいのり』『でんでんむし』ってどんな作品?
こしにおいのり
元になった狂言:『腰祈(こしいのり)』
長い修行を終えて里帰りした山伏は、久々にお祖父さんの家を訪ねることに。家では太郎冠者がお祖父さんの世話をしていた。未だに自分を小さくて可愛い孫扱いするお祖父さんに山伏は修行の成果を見せようと、苦い丸薬を甘くしたり、お祖父さんの曲がった腰を治そうと試みる。「ぼおろん〜ぼおろん〜」呪文を唱える山伏。しかし祈りが効き過ぎて、腰が曲がりすぎたり伸びすぎたりしてしまう。最後は全員の腰まで曲がったり伸びたり、踊りながら退場する。
今回のキャストはこちら(年齢は2024年9月当時のものです)
山伏(やまぶし)…ジャッキー(剛田篤典)23歳
お祖父さん(おじいさん)…寺さん(寺原航平)26歳
太郎冠者(たろうかじゃ)…まゆたそ(齊藤舞夕)25歳
後ろで演奏する人…もりもり(森口夏希)21歳
ジャッキーは「きょうげんあそび」3回目、もりもりは2回目、寺さんは「きょうげんあそび」初参加でした。私、まゆたそは今回で4回目の出演です!
「後ろで演奏する人」とは、「きょうげんあそび」の内容に合わせて色々な楽器を演奏し、盛り上げる役のことです。
でんでんむし
元になった狂言:『蝸牛(かぎゅう)』
長生きを願う主が、長生きに良いと聞く「かたつむり」を探してくるように太郎冠者に頼む。しかし主はかたつむりを見たことがない。「頭が黒い」「腰に貝をつけていて、時々ツノを出す」「薮の中にいる」という主からの情報を頼りに太郎冠者が山へ向かうと、そこには修行をしている山伏の姿があった。「あなたがかたつむりですか?」と聞く太郎冠者。その様子を面白がった山伏は、太郎冠者をからかってやろうとかたつむりのふりをして「かたつむりは歌が好きなんだ」と歌う。そこへ主が太郎冠者を探しにやってきて、最後はみんなで踊り、歌いながら退場する。
今回のキャストはこちら
主(あるじ)…ジャッキー(剛田篤典)23歳
太郎冠者(たろうかじゃ)…寺さん(寺原航平)26歳
山伏(やまぶし)…もりもり(森口夏希)21歳
後ろで演奏する人…まゆたそ(齊藤舞夕)25歳
「きょうげんあそび」の「課題」
狂言要素が薄い
「きょうげんあそび」には「狂言要素が薄い」という企画の立ち上げ当初からの大きな課題がありました。何故なら当時のぱちぱちメンバーには「狂言が好きな人」はいても「狂言を学んだことがある人」がいなかったからです。
これは公演を重ねる度に悩み続けてきたことで、この課題を考えることは、「きょうげんあそび」をなぜ演劇ネットワークぱちぱちが上演するのか?ということにも繋がっていると感じるようになりました。
本物の狂言を観たいのであれば、能舞台に行って狂言師を観ればいい。18歳から25歳という若い世代の私たちが、狂言を再構築した「きょうげんあそび」を上演するのは何故なのか。
「大きく」「ハッキリと」「分かりやすく」
これは「きょうげんあそび」立ち上げの時から重要視している「きょうげんあそび」の役者に必要な3要素なのですが、これらを意識・強化するための稽古を今後取り入れていきたいです。
上の文章は、前回の公演で新作『カミナリ』を上演した際、レポートの終わりに書いたものです。
「きょうげんあそび」の良さは、観る人もやる人も気軽に演劇に参加できること。上演時間10分の短さの中で、出演者とお客さんが一緒になって劇世界を楽しめるのが魅力です。そして小道具が必要ないためどんな場所でも上演することができます。
これまで「きょうげんあそび」は保育園のクラスの中、幼稚園のステージの上、ホールのロビー、屋外と様々な場所で上演を行ってきました。出演者の声と体だけを使う演目を、どんな場所でもお客さんと一緒に楽しむために、台詞や動きを「大きく」「ハッキリと」「分かりやすく」するという3要素が生まれたのです。
「出演者とお客さんが一緒になって劇世界を楽しむ」というキーワードは、保育園と幼稚園で上演した際に、お客さんの子どもたちから教えてもらったことでした。出演者は劇世界の登場人物でありながら、お客さんとも積極的に交流する「お兄さん・お姉さん」という存在なのです。
お客さんに開かれた身体、声、動き。過去4回の上演の中で「きょうげんあそび」に必要な要素がかなり明確になってきました。
後は狂言要素さえあれば……!そんな私たちの声を聞き、今回なんと二人の強力な助っ人が参加してくださいました!
俳優の時田光洋さんと、ダンサーの木皮成さんが参加!

時田さんは以前、万作の会(野村万作さん、萬斎さんを中心とする和泉流の狂言カンパニー)で働いた経験を持つ現代劇の俳優さん
木皮さんは昨年上演された#マジゲキに演技指導とプロデューサー協力として参加してもらったダンサー・振付家の方です。
この強力なプロのお二人がドラマトゥルクと振付として「きょうげんあそび」に参加してくれることになりました!
ドラマトゥルクとは?
舞台芸術の創作過程で、リサーチや作品分析、助言、調整などを担う職種のこと。
きょうげんあそびがパワーアップ!
新作『こしにおいのり』上演が決定
今回「伝承のたまてばこ」の事務局から依頼された上演時間は30分。稽古時間のことを考えると上演できるのは2作品。一つは『でんでんむし』をやるとして、折角お二人が参加してくださるのだから新作を作ろう!と、いくつかの候補の中から「おじいさんが出てくる」「腰が曲がりすぎたり伸びすぎたりするのが見ていて面白い!」という理由で『腰祈』が原作として選ばれました。どちらの作品も登場人物は3人。ここで出演者の4人が決定します。

(左下から)まゆたそ、寺さん、木皮さん
狂言の基本姿勢や旋律を学ぶ
時田さんが書いてくださった台本を元に稽古をしながら、狂言の基本姿勢や動き、台詞の発し方を学びました。今回上演する作品にはそれぞれ山伏が登場するので、それぞれの体のクセや見え方を伝え合いながら、みんなで山伏の動きを決めていきます。これまで謡ってきた『でんでんむし』の歌もこれを期にちゃんと狂言に寄せて謡おう!ということで振付も含めて新しくなりました。是非動画でご覧ください!


犬の動きとは?
『こしにおいのり』に登場する太郎冠者はとってもユニーク!なんと途中で犬になります!台本を最初に読んだ時にはビックリしましたが、体一つで別の生き物を表わせるのが狂言の面白さ!
というわけで動物の動きのレパートリーを沢山もっている木皮さんに、犬の動きを指導してもらいました。四つんばいになり、指を丸めつつも痛くないように手のひらを着きながら歩きます。他にも、おしりを突き出して手を広げれば蜘蛛になるなど、面白い動きを沢山教えていただきました!



新しく衣裳を作る
小道具も衣裳も全て自分たちで手作りするのが「きょうげんあそび」スタイル。衣裳担当のアキナを中心に、今回もみんなで手分けして衣裳を作りました。
アキナは私と同じ「きょうげんあそび」ディレクターの1人で、「きょうげんあそび」立ち上げの時から一緒に世界観を創っています。今回は衣裳という立場で主にお祖父さんと主の衣裳を作ってくれました。



色々な楽器を使ったオープニングダンス
今回「きょうげんあそび」に初めてオープニングダンスができました!ウッドブロックやスレイベルという大きな鈴など、それぞれで楽器を鳴らしながら、「きょうげんあそび」を楽しむ「お兄さん・お姉さん」として登場します。こちらも是非動画でご覧ください。

今回の出演者の声
森口夏希(21歳・『こしにおいのり』後ろで演奏する人、『でんでんむし』山伏役)
きょうげんあそび2回目の参加でした。時田さんと木皮さんのご指導により、更にパワーアップした作品になりました。
私はきょうげんあそびを通して狂言の堅苦しいイメージが払拭されたり、慣れない言葉使いに親しみを感じられた経験があります。今回作品を作る上で私が感じた狂言の面白さをお客さんにも共有したいと思い、狂言のならではの動きや言葉を丁寧にクリエイトしました。
気軽に相談できたり、私の良いところを伸ばしてくれる稽古場が楽しくて仕方なかったです。
剛田篤典(23歳・『こしにおいのり』山伏役、『でんでんむし』主役)
今回3回目の参加となりましたが、例年より大幅な変化がありました。特に変わったのが、作法です。前回も作法の稽古もありましたが、今回は時田さんをはじめ、多くの狂言に詳しい方々がクルーに加わり、より本格的な狂言を学ばせて頂く事が出来ました。その分苦労もありました。ただ狂言っぽくやるというのは当たり前ですが、違います。お芝居はお芝居なので狂言の中のお芝居というものに苦戦しました。しかし、日本の伝統ある芸能を体験でき非常に感慨深いです。凄く貴重な体験でしたし、今後の俳優人生にとっても良い糧になりました。もっともっと味のある役者になる為に日々成長します!
寺原航平(26歳・『こしにおいのり』お祖父さん役、『でんでんむし』太郎冠者役)
今回私は『こしにおいのり』のお祖父さんの体勢に関して、全身に力を入れっぱなしにしないと保てませんでした。ガッチガチです。一方、狂言師の方の『腰祈』を見ると、見せるべきものはきちんと見せ、かつ軽やかに動かれています。まさに芸です。演者が不必要に力んでいたら、見ていても笑いづらいですよね。「適切な脱力」、課題です。
「きょうげんあそび」はこれからますます楽しくなります。個人的には、住宅街にあるような小さな神社の神楽殿でやりたいです。呼んでください!お願いします!
「きょうげんあそび」のこれから

時田さんと木皮さんという強力な助っ人を得て更にパワーアップした「きょうげんあそび」。当日は2公演合わせて140人以上のお客さんが観てくださいました。
今回私自身が強く感じたのは、ゴールを一緒に目指してくれるプロの大人たちの心強さと、ハードルを乗り越えた先の楽しさです。特に犬の動きなど、これまでやったことのない表現だったので、上手く表現できるだろうか?という不安もありましたし、いつも以上に自身の身体と向き合う作業が必要になりました。けれど無事に本番を終えられたことで「私は犬の表現を一つ覚えたぞ」とその時間が一つの自信になったことを感じました。
恐らく「きょうげんあそび」は、もっと身体表現を突き詰めて「これを体と声だけで表現するのは少し大変だぞ」と出演者が感じるくらいのハードルが毎回あった方がいいのだと思います。そうすれば出演者は毎回出演する度に「今回はこれができるようになった」と成果を持ち帰れるし、お客さんはよりクオリティの高いものを観ることができる。
そのためには「きょうげんあそび」ディレクターである私ももっと狂言について学ばなければいけないし、身体表現についても更に具体的にしてレベルを上げなければいけないなと思いました。
「きょうげんあそび」は依頼を受けてから上演するという性質上、上演場所やお客さんの年齢層によって毎回内容が大きく変わります。そう考えると、色々な場所・お客さんを前にして上演を重ねることが「きょうげんあそび」が成長を続けるために一番重要なことなのかもしれません。
上演のご依頼、お待ちしております!
(「きょうげんあそび」ディレクター・齊藤舞夕)
上演依頼・お問い合わせ
上演について
基本料金
1演目(約10分)2万円(交通費込み・消費税別)〜
★人気プラン★ 30分(2演目または1演目+演劇遊び)×2ステージ 5万円(交通費込み・消費税別)
とはいうものの、ご予算に応じますのでご相談ください。
依頼について
「一緒に遊べる要素を多めに入れてほしい」「まだ細かいことが決まっていないんだけど…」
なんでも大丈夫です!上記のフォームにご希望を記入の上、お問い合わせもしくは上演依頼にてお申し込みください。対象年齢や予算、イベントに合わせた上演のご提案をいたします。新作の創作も可能です。お気軽にご相談下さい。