「戯曲を書くって、いいものだと思うんですよ」──中村大地さんに“戯曲を書くこと”についてインタビュー!(後編)【byぱちぱち戯曲研究会】

「演劇の戯曲ってなに?」「どうやって書くの?」「台本とは違うの?」

演劇は観たことがあっても、戯曲を読んだこと、ましてや書いたことはなかなか無いかもしれません。

演劇とのより良い付き合い方を見つけるためのコミュニティ・演劇ネットワークぱちぱちでは「戯曲研究会」を発足!有志のメンバーが「戯曲」そのものや「書くこと」について考え、実践していきます。

このインタビューでは、劇作家・演出家で、『戯曲を書くワークショップ』を開催している中村大地さん(屋根裏ハイツ 主宰)に「戯曲」についていろいろとお聞きしました。

前編では、中村さんの戯曲を書きはじめたきっかけなどをインタビューしました。後編となる今回は、ほかにはない「戯曲を書くこと」ならではの魅力や楽しさや難しさについて、お話していただいています。

聞き手:伊藤優花(演劇ネットワークぱちぱち 運営メンバー)

※中村さんは、私たち演劇ネットワークぱちぱちが拠点とする八王子をテーマにした戯曲ゼミを開催予定です。また9月16日には<1日完結型>の『とにかく戯曲を書いてみるワークショップ』を開催予定です。こちらもご興味ありましたらぜひ!

⇒ 詳細:https://www.hachiojibunka.or.jp/archives/eventinfo/scenario2024/

中村大地(演出家、劇作家・演出家、劇団 屋根裏ハイツ 主宰)

中村大地(演出家、劇作家・演出家、劇団 屋根裏ハイツ 主宰)
1991年東京都府中市生まれ。東北大学文学部卒。在学中に劇団「屋根裏ハイツ」を旗揚げし、8年間仙台を拠点に活動。2018年より東京在住。現在は仙台・横浜・東京をゆるやかに
行き来しながら創作をつづける。過去も未来も、生者も死者もいつの間にかゆるやかに共存する作劇が特徴。土地と協同しながら記録をおこなうコレクティブNOOK、部屋というスケールから演劇を捉えなおす集まり #部屋と演劇 のそれぞれメンバー。

「戯曲を書く」ということの面白さって?

──初めて戯曲を書く人でも、書くことの楽しさを味わえたらいいなと思うんですが…

うーん、僕は書くことの面白さに気づくのに時間がかかりましたが……結構想像していたようには書けないもんなんですよね。なんかうまくいかないなあっていう。それでまた続けてみるっていう。これは小説でもなんでもそうだと思いますが。最初からうまくいったら、それは天才ですから。

ただ、戯曲を書くっていいもんで。戯曲って他者に託すメディアなんです。「書く」ことってそもそも、小説でもエッセイでも詩でも、自分の内側でぐるぐるしてるものを一回外に出してみて、冷静に眺める効果があると思いますが、戯曲というのはさらにそれを、書いた自分じゃなく他の誰かにやってもらえるんです。自分が書いたはずのキャラクターも、他人の身体を通じて思っても見ない方向に転んでゆくことが許されているし、普段自分が思ってないようなこともセリフにできたりする。託された俳優は俳優で、他人が書いたキャラクターだから自分の倫理観から離れたことを言えたりする。書いた人の手を離れて、自由に動いていくことで、いろんな発見がうまれます。

あと、個人的に戯曲というのは、声に出して読むことが前提とされているメディアだとも思うんです。自分の書いたものを他人によって声に出されることで、「こんな意味だったんだ」と気づいたり、自分でも思ってみないことが起こったりする面白さがある。書くときにも「これは声に出して喋るものなんだ」という前提で言葉を書くと、そうじゃないものとは書き方も感覚も変わるんですよね。

──たしかに、他人が関わることを前提に書くというのは、ほかのものではあまりないかもしれないですね。

あと、人によるかもしれないけど、僕は戯曲って「気持ちを書かなくていい」というところが良いなと思います。たとえば、登場人物が傷ついたことを言葉で説明をするんじゃなくて、泣けばいい。あとは、「気持ちはよくわからないけど、こう言ってしまう、こう動いてしまう」が書ける。それが、僕は気楽ですね。

──戯曲を書くのが楽しくなってきた今、これからどんな戯曲を書いてみたいですか?

これまで会話劇を書いてきたけれど、最近は「会話劇はもう限界かな」という感覚もあって、もうちょっと自由度の高いものを書きたいかな、とは思ってます。会話劇だと設定したシチュエーションのなかで起こることを書くから、それはそれで楽しいんだけど、もっと面白く書けないかなぁと悩んでいるんです。

それで、200人以上の規模のお客さんの前で上演するための戯曲を描いてみようかなって。上演の予定はないけど。

──200人!これまでは大きくても数十名規模の客席での公演が多かったですよね。規模を大きくすると、今までと変化はありそうですか?

どうでしょう。

僕の演劇は「声小さいですね」とよく言われるんです。でも、僕が小さい声の会話劇を書いたり、部屋を舞台設定にしているのって、小劇場にちょうどいいサイズだと思ったからで。僕としては「みんな声がでかすぎる」「こんなに狭くてこんなに距離が近いのに、そんな叫ばれてもなぁ」という思いが根本にあった。ちょうどいい空間でちょうどいい声で…と作ってきたから、広ければそこに合う作品を自然と書くかなって。でも、広いところで上演する依頼をいただくこともないから、じゃあ自分で大きい劇場でやる想定で考えてみようかな、とふと思ったんですよね。

あと、キャパ120人くらいのせんがわ劇場で上演をした時に、小さい声でも一番後ろの席までちゃんと聞こえるし、できるじゃんって思ったんですよね。だからたぶんキャパ200人くらいまでなら、芝居そのものは今とそんなに変えずにやれるんだろうなとは思っています。

──俳優の声の大きさに変化がでる可能性があるのが200人規模という予想なんですね。上演場所を想定しながら戯曲を書く、というのも面白いです。

ワークショップだから、楽しく、健全に書ける

──戯曲を書く面白さや、大変さも聞かせていただきました。中村さんは仙台でも「戯曲を書くワークショップ」をやっていますが、ワークショップに参加して書くことの面白さや良さ、また、一人で書くことの違いはありますか??

そもそも、この戯曲を書くワークショップを始めたきっかけが、「戯曲を書くのって個人作業で大変だな」と思ったからです。ガルシア=マルケスという有名な作家がいますが、彼が放送作家や映画監督の卵やカメラマンを集めて、みんなでそれを議論しながら短編ドラマのプロットを始めから終わりまで作る、ということを実際にやっていたんですよ。その様子が『物語の作り方:ガルシア=マルケスのシナリオ教室』という本になっていて、僕はその形式を借りて、戯曲でやってみたらどうだろうと思って始めたのがこのワークショップです。

──だから中村さんのワークショップのタイトルは、「戯曲教室」じゃなくて「シナリオ教室」なんですね!

そうですね。その本のなにが良かったかというと、みんな自由に喋っていて、けっこうガヤガヤしている感じが想像できるんですよ。最初の提案を大事にしつつも、どんどんズレていって、最終的に着地する。そうやって、台本を書くんじゃなくていろんなことを考える時間を一緒に共有してくれる人がいるということが、書き上げるために大切なことだと思います。正直シナリオ教室の場で出たアイデアは採用しなくてもいいんです。どうせ書いていたら変化するし、書きたくても書ききれないことはきっと多いから。

とくに戯曲ってひとりで書いてても手応えも感じづらいと思うんです。上演の予定がなければなかなか書くこともないだろうし、完結させるのもすごく大変。でもゼミ形式にすると、「みんなも一緒に書いてるんだ」という感覚もあるし、相談もできる。

──10月から3月にかけて八王子で開催するワークショップも、少人数のゼミ形式で、コミュニケーションを取りながら戯曲を書くことに向き合えそうです。

そこでは各回に締切をもうけていて、毎回、途中まででいいから書いてみてとにかくシェアするってことになっていて。シェアしてその感想を喋ることで次の展開が生まれてきたりするだろうなと思っています。また、何か書きたいという衝動だけはあるけど何を書いたらいいかわからないとか、どんなテーマで書いたらいいかわからないという人でも、ワークショップのなかで一緒に八王子の街を歩くことによって、書きたいものを見つけることができると思います。その街に住む人の話を聞いて書いてみるとか、地形や風景から書きはじめてみてもいい。

「こういうのを書きたいんです」という意志を始めから持っている人にとってはシナハン(※台本を書くための取材のこと)ができる。書くために役に立ちそうな資料や場所を見つけたり、リサーチをするのも、一人でやるよりみんなでやったほうが楽しい。

だから、大学のゼミみたいに、ときどき集まって報告を共有し合える相手がいるという状態で何かを作るっていうのは、健全な場になるんじゃないかな。そういう場にしたいなと思っています。

あと、戯曲のいいところって、小説とかと比べると賞の候補者がすごく少ないんですよ。もしかしたら賞だって取れるかもしれない(笑)。そういう気概で始めてみても、いいかもしれないですね。

──挑戦しやすさも大事ですよね。

そうですね。でもやっぱり、メディアとして面白いと思いますよ、僕は。他人に声を出してもらうこと、他者の存在を前提とするメディアってなかなかない。その面白さをちょっと体験してみようかなと思ってもらえたら嬉しいです。

──八王子でのワークショップは、最後に書き上げた戯曲をゲストの舞台俳優が読んでくれて一般公開もします。読んでもらって、観てもらうという体験ができる企画には、中村さんの思う「戯曲の面白さ」が込められているんだなと思いました。

いろんなお話を聞かせてくださり、ありがとうございます!

※9月16日には、ワークショップの<1日完結型>バージョンである『とにかく戯曲を書いてみるワークショップ』が開催されます。ためしに「戯曲ってなんだろう?」を体験してみたい、という方はぜひ!

⇒ワークショップ詳細はこちら

※1日完結型ワークショップの詳細は、リンク先のページ後半に掲載されています。


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