

2025年7月5日(土)八王子市芸術文化会館(いちょうホール)にて、ツアー型演劇『むかしむかし、あるお家に〜たまてばこで大冒険〜』を上演しました。
こんにちは!ぱちぱち運営メンバーのまゆたそ(齊藤舞夕)です。実は『むかしむかし、あるお家に』シリーズに関わるのは5回目。今回は制作として公演に関わりました。このレポートは、今回の公演を上演するにあたって、私たちがどんな取り組み方をしたのかを記録として残すためのものです。
開催概要
『むかしむかし、あるお家に〜たまてばこで大冒険〜』
テーマは、「目に見えないものを大切にする」「目に見えないものの存在を肯定すること」
劇場で座って観るだけではなく、お客さん自身が会場内を歩いて遊んで楽しめることを目指した親子向けのツアー型演劇(イマーシブシアター)です。
「伝承のたまてばこ〜多摩伝統文化フェスティバル〜」の演目の一つとして上演されました。
作品あらすじ
「伝承のたまてばこ」に遊びに来た小学生「アイコ」。
人間に化けたタヌキ「たぬ平太」が仕掛けたツアーに参加すると、なんと妖怪が見えるようになった!
いちょうホールには妖怪がいっぱい!蛇や雪女など、多摩地域にもなじみ深い妖怪と一緒に遊んで、キーワードをゲットしよう。
キーワードを集めると、大きな〇〇〇が現れて…!?


イラスト:あらすけ デザイン:三澤一弥
🍃公演詳細ページはこちら🍃 過去の『むかしむかし〜』上演の歩みも掲載しています。
日時
2025年7月5日(土)
上演スケジュール:①10:00〜11:30 ②13:00〜14:30 ③16:00〜17:30 全3公演
上演時間:90分程度
会場
八王子市芸術文化会館(いちょうホール) 小ホール、練習室1~3、多目的室、ホワイエ、小ホール楽屋1〜2
クレジット
構成・作・演出:中村大地(屋根裏ハイツ)
ディレクター:中込遊里(鮭スペアレ/一般社団法人AsoVo)
プロデューサー:辻寛子(一般社団法人AsoVo)
舞台監督:米澤建治
照明:朝日一真
音響・音楽:五十部裕明
美術:北山聖子
衣裳:竹内陽子
エンディングダンス振付:日里ひとみ(鮭スペアレ)
出演・作:上埜すみれ(鮭スペアレ)
奥山樹生、池田莉生、西島永恵、大久保佑南、工藤千鶴、山地真央(以上、演劇ネットワークぱちぱちメンバー)、堀慎太郎(ぱちぱちフェロー)
プロデューサー補:林穂香(八王子市学園都市文化ふれあい財団)
制作:齊藤舞夕(一般社団法人AsoVo)
広報:伊藤優花(一般社団法人AsoVo)
票券:公益財団法人八王子市学園都市文化ふれあい財団
当日運営:若尾颯太(ぱちぱちフェロー)、若葉美奈、野口沙希(以上、演劇ネットワークぱちぱちメンバー)、八木つかさ
人材派遣会社マッシュ
大きな反響
チケットは公演2週間前に完売!
全3ステージで、123人のお客様に来場していただきました。早々にチケットが売り切れてしまったことでキャンセル待ちが40人以上も!
事前にターゲットとして想定していた親子連れの他に、イマーシブシアターに興味がある高齢者の方から20代女性のグループまで、幅広い年齢層が来場しました!
この作品の構造
【プロローグ】
受付で「冒険の書」を渡された後、最初、お客さんは小ホールの舞台上に集まる。
「最近妖怪たちの様子がおかしい。その原因を探るために、ヒントが入っていそうな箱を開ける(=そのためにキーワードを集める)のを手伝ってほしい」旨をたぬ平太からお願いされる。
=ストーリーの共有
たぬ平太の力(魔法)によってお客さんたちにも妖怪が見えるようになる。
↓
【チュートリアル】
お客さんはまず二手に別れ、通称「チュートリアルミッション」をする。
=「妖怪の悩みを解決するとキーワードがもらえる」ということをお客さんに理解してもらう。
↓
【会場内 回遊時間】
その後、お客さんは会場全体へ散らばり、通称「個別ミッション」で妖怪たちと遊んだりしてキーワードを集めてもらう。
↓
【エンディング】
時間になったらお客さんは再び小ホールへ集合する。
キーワードが集まり箱が開くと、本がありそれには妖怪についての物語が書かれている。クライマックス、妖怪たちが飲めや歌えやの大騒ぎ。蛇親子の再会。踊る!!
やがて妖怪たち消える。たぬ平太から「見えなくてもいるんだよ」のメッセージ。たぬ平太の魔法解除。ばいばい!
この作品ができ上がるまで
妖怪について考えるワークショップ開催
最初に演出の中村大地さんからこの作品の構造について説明があり、ツアー型演劇とはそもそもどういうものなのか、役者はこの作品の中でどんな役割を担うのかカンパニー全員の認識を揃えました。
この日の稽古では
①自分の妖怪の絵と、得意なこと・苦手なこと、性格、仲間などを考えて「妖怪紹介シート」を作ってみよう!
②自分の妖怪以外の妖怪ともう一人以上を登場させる+「喜怒哀」から1つ選びその感情に沿ったエピソードを作る「妖怪えにっき」を描いてみよう!
2つのワークショップを行いました。



『むかしむかし〜』シリーズは2021年が初演の作品ではありますが、もはや毎回新作を創っているといってもいいくらい、上演されるごとに大きく内容を変えています。「ツアー型演劇」となったのは2023年から。高尾の上演と成城学園の上演を終えて、作品の構造が定着したことで、今回ようやく稽古場で何をするべきなのかが明確になってきました。
『むかしむかし〜』は「キーワードを集める」という要素があるため、作品を作っていく中でどうしても「キーワードを集めるための個別ミッション(ゲーム)の内容をいかに面白くするか?」という方向にみんなの意識が行きがちでした。でもお客さんはゲームをするために来るのではなく、演劇を見る(体験)ために来ているということ。そこで重要なのは作品の中心となる物語であり、それぞれの役の関係性である。それを改めて認識するためのワークショップでした。
本格的な稽古開始!
今回の作品創作における稽古内容は以下の通りです。
オープニング・エンディング台本の読み合わせ
今回の作品の目玉は蛇の親子。最後には巨大な蛇が登場します。
これまでの『むかしむかし〜』との一番の違いは、「離れ離れになってしまった蛇の親子が、劇を通して再会する」というメインストーリーがオープニングからエンディングまで共通して流れていることです。蛇の親子がどのように再会し、物語を閉じるのか。みんなで意見を出し合って一番良い形を探りながら、何度も台本が改訂されていきました。

チュートリアルミッションのアイデア出し
今回のお客さんの定員は各回50人。つまりチュートリアルミッションは一度に25人の人に楽しんでもらえるような内容でなくてはなりません。お客さんに妖怪との関わり方を最初に理解してもらいつつ、「蛇の親子が離れ離れ」になっているということも伝える。ゲームとストーリーの両方からカンパニーみんなで考えていきました。
エンディングダンスの振り入れ
物語の最後に蛇の親子が再会して、妖怪たちはそれを祝ってみんなで踊る。この流れができたところでエンディングダンスの振付を行いました。

大蛇が完成!動きの確認
完成した大蛇は大きくて迫力満点!ですがその分操作するのも大変です。今回は4人で操作しました。口の開閉と体のパーツに別れ、蛇が生きているように見えるように全員で何度も動きを合わせました。

個別ミッションづくり
いちょうホールの各部屋でそれぞれ行われる、通称「個別ミッション」。上演地である八王子にまつわる民話から考えてみたり、妖怪の性格や特性から考えたりなど、さまざまな方向性からアイデアが生まれ、試行錯誤を繰り返し、途中で何度も形を変えながら最終的な形になっていきました。
衣裳合わせ
カメや雪女など、ある程度見た目のイメージがついている妖怪もいれば、餓鬼や豆富小僧などイメージがしづらい妖怪、どちらも登場するのが『むかしむかし〜』の特徴です。衣裳合わせでは、妖怪のイメージに囚われず、役者の個性に合わせながら細部を変更したり、動きやすさや全体で並んだときの印象などで部分的な修正を行い、『むかしむかし〜』オリジナルの新しい妖怪が生まれました。

ワークインプログレス
ワークインプログレスとは、創作途中の作品を公開し、観客の視線や意見を参考にしながら作品を練り上げていく手法のことです。
今回はチュートリアルミッションと個別ミッションのブラッシュアップのため、放課後の児童館を訪問し、現地の子どもたちに本番と同じ流れでミッションを体験してもらいました。

オープニング・エンディング稽古
別々に稽古をしていた大蛇の動きと役者の動きを合わせ、オープニングとエンディングの流れを繋げます。ツアー型演劇ではありますが、オープニングとエンディングではお客さんは舞台上や客席に座った状態で鑑賞してもらうため、見え方やお芝居の方向性などを細かく調整していきました。

劇場入り
この作品はツアー型演劇のため、劇場以外の空間も照明や音響、美術を仕込む必要があります。劇場入り1日目には劇場以外の会場を仕込み、そして2日目には劇場の仕込みと場当たりを終え、夜に公開リハーサルを行いました。このリハーサルでは実際にお客さんを招き、演出の中村大地さんが各部屋へ誘導する形で、お客さんに全てのミッションを体験してもらいました。



本番当日
ついに本番当日。無事に最初の回の幕が開き、その後細かい修正を行いながら、3ステージ目まで駆け抜けることができました。



お客様の声(来場者アンケートより)
子ども(小3)がとても楽しかったと言っています。大人も大変楽しめました。(50代)
たのしかった。かめとおどるのが。(6歳)
楽しかった!また来ます!(10代)
あっという間の時間。おどってうたってとても楽しい時間でした。(50代)
すごく楽しかったです。妖怪などに興味があって、その世界に入ってみたかったので、来られてよかったです。(30代)
2回目の参加でしたが、内容が全く違い、子どもたちも楽しめました。(40代)
とってもとっても楽しかったです!!初めてこういった演劇を体験しました。声の出し方や表現がすごくて魅了されました。(30代)
上演を終えて
『むかしむかし、あるお家に』は上演の度に変化し、進化してきた公演です。2023年に「ツアー型演劇」という形になってから今回で3度目の上演になりますが、それぞれの内容は全く違います。それはこの作品が「どこで上演されるのか」を大切にしてきたからです。例えば、高尾で上演したときは「カラス天狗」「カッパ」、学校で上演した時は「校長先生の銅像」「座敷童」、そして今回は「大蛇」と、上演される場所に合わせて妖怪を新しく生み出してきました。そのため、タイトルは同じながらも実質毎回新作を上演しており、毎回本番を迎えるまでがとても大変な公演です。ですが後々記録された写真や映像を見て、お客さんの楽しそうな表情や声を聞くと「こんなに楽しんでくれていたのか」と毎回驚くのです。
ツアー型演劇は、どこに居ようと全ての瞬間が舞台上であり、キャストは常に役として存在し続けることが求められます。スタッフであっても世界観を維持するために、キャストのような立ち回りを求められることもあり、通常の演劇公演とは大きく異なります。しかし、だからこそお客さんの反応を一番近くで感じることができ「お客さんと一緒に創る」「お客さんからパワーをもらう」という言葉の本当の意味を感じることができるのだと思います。今回、妖怪を応援する子どもや、それに対するキャストの反応を見て、改めてそんなことを感じました。
今回の上演を通して、物語の構成やオープニングからエンディングまでの流れがようやく固まりました。後はこれにもう少し各キャラクター同士の関係性が濃くなれば、「ツアー型演劇」として一つの完成を迎えることができるのではと思いました。
またどこかで妖怪たちと冒険ができますように。
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