【レポート】プロの俳優を目指す若者のためのワークショップと成果発表公演(2023/11~2024/1)

企画概要

演劇ネットワークぱちぱちでは、俳優を目指す18歳~25歳の若者が、上質な戯曲を題材にして「自らの演技に向き合う」ためのワークショップと成果発表公演(ディスカッション付)を開催しました。本記事はそのレポートです。(ライター:演劇ネットワークぱちぱち総合ディレクター中込遊里)

企画の成り立ち・参加者募集の記事はこちら

成果発表公演の内容・出演者プロフィールこちら

ワークショップのレポートは以下

第一回(講師:近藤隼)

第二回(講師:清水いつ鹿)

第三回(講師:福原冠)

成果発表公演レポート

成果発表公演は、劇団MONO土田英生氏作の『少しはみ出て殴られた』を題材として、演劇ネットワークぱちぱちの年度替わりの全体集会『ぱちぱちa go go』の一演目として開催されました。

35名ほどのお客様に見守られ、2時間の公演と1時間のディスカッションを開催しました。

お客様は、本企画で目指した演技術のポイントが書かれた「鑑賞の手引き」をもとに、観劇とディスカッションに参加しました。

「鑑賞の手引き」はこのURLからご覧になれます(pdfファイルが開きます)→

https://hachiojibunka.or.jp/play/net88/wp-content/uploads/2024/03/鑑賞の手引き-Google-ドキュメント.pdf

観劇した方からのご意見

ディスカッションの中や、出演者へのメッセージとして寄せられたご意見のまとめです。

出演者(企画参加者)へのご意見

・5回の集中稽古とは思えないくらいクオリティが高かった。

・ワークショップとしてはうまくいっていたと思う。全員、もっと音声をはっきり出せるとよい。

・(創作で大切にした「ステータス」について)稽古時間が短い中であれば、戯曲上どのステータスだと成立するかより、台詞を相手に伝えて受け取った結果、どうステータスが変化するかを見てみたかった。その方がリアルだと思う。

・シーンによって間延びしたところもあったが、演出不在でもきれいなミザンスができていたらよくなるんだなと思いました。

・キャスト、役同士の関係を作ったら、次の段階として会場との関係を作る。投げかけるのか、誘い込むのか。そこが計算できるようになると声や台詞、動きのひとつひとつが伝わる。

戯曲へのご意見

・差別とか、今の世界に起こりうる、実際に起こっていることを改めて確認できました。

企画に対するご意見

上演時間がもっと短く、出演する人数が少ない作品を選んだ方が企画の目的に沿ったものになったのではないか。(長いので短い稽古時間で丁寧な創作がしにくい)

・同じ作品を、同じ出演者で演出家が入ったものを見てみたい。

演出が不在だったため、内側に閉じられた上演になっていた。俳優だけでつくる取り組み自体はよいことだと思うが、そうなってしまうことを意識できるとよい。(あるいはそれを意識できる俳優になるということ)

演出家がいなくても、俳優の工夫と若干のフィードバックでここまでできるんだな、と感慨を覚えました。(演出家は不要だ、とは断じて思っていません。)彫刻家志望の美大生にはデッサンの課題があるそうですが、それを見ているような。

ご意見いただいたみなさま、本当にありがとうございました!今後の活動に活かして参ります。

出演者8人によるレポート

ワークショップと成果発表公演に参加したユース世代8人が、本企画を通して知った「自分の現在地」「継続したいこと」「問題と感じたこと」「挑戦したいこと」の3点から言葉にしました。以下、抜粋です。

朝果(ナカゲガミ役):桜美林大学芸術文化学群演劇・ダンス専修3年。本企画の立案者(ディレクター)

私は普段役を演じる際に役の細かなプロフィールや背景、他の役との関係性を脚本から考察している。
本企画でも、「各々の役のプロフィールを考えてくる」課題があったため、自分の普段の取り組みは間違っていなかったことがわかった。また、稽古中講師の平川さんが幾度となく仰られていたステイタスや、物理的な距離感についても、考察した関係性から導き出し反映させることができて、自信に繋がった。

ただ、企画を通して自分が目標にしていた「自分に足りないものを見つける」ことはできなかったように思う。
稽古が進む中で講師や共演者に指摘される機会があると予想していたが、作品を作るために必要な技術の話が多く、ひとりひとりの技術の話はあまりできなかった。

一方、自分ができていることは「役の考察分析」だという発見はできた。また、「自分を知る」つまり自分のなにが足りていないのかだけではなく、なにが得意かもまだわからないことを、本企画で知ることができた。

少しずつでもいいから自分を知り「足りないもの」「得意なこと」を探していきたい。

前田柚希(ミタムラ役):桜美林大学芸術文化学群演劇・ダンス専修3年。本企画の立案者(ディレクター)

最大の学びは、自分の役のプロフィールを考えたことだ。役の細かいプロフィールを考えた結果、台本読解がやりやすくなったり、自分の役の気持ちを想像しやすくなった。ただ、自分の想像したことを投げて相手に伝えられたが、伝えただけで受け取らない事が何回かあったため、伝えるだけではなくどのように相手を受け入れるのかを考えて実行する必要があったと思う。

改善したいところは、気になったことや疑問を自分の内に秘めてしまうこと。日頃から他者に注意をしたり批判をしたりが苦手なので、演劇の場でも萎縮してしまっていた。しかし、本番を経験して、お客様からのメッセージを読むと、自分が気になっていたことが同じように指摘されていたことがわかったため、気が付いた段階で声を上げればよかったと反省した。とくに演出がいない企画であれば。

これからは、台本読解はプロフィールを「台本の中から見つけて」考える、そして「何個もの選択肢を作る」ことを意識したい。さらに、共演者に対して言った方がいいことと言わない方がいいことを判断して適切にネガティブにならず伝えることが最大の課題と気が付いた。日頃から練習したい。

永高涼(アケビ役):桜美林大学芸術文化学群演劇・ダンス専修3年

他の作品とも両立しながら、アドリブに対応することができるまでに役を自分のものにできたことは、自分の努力の結果だった。
それに加え、自身の枠を広げていくための誇張した芝居(それが的を射ていれば良いのだが)に挑戦することが出来た。単なる誇張ではなく、もっとより芯を持った誇張になれば、舞台演技において、更なる成長が見込めると思う。

一方で、多忙や自身の状況により余裕のある状態で稽古に臨めなかったこと、他者を信頼することがほとんど出来なかったことが課題だった。短期間の稽古で、他者を信頼する時間がどうしても不足してしまい、新たな発想を持ち込んだり自身に余裕が無い時に誰かに頼ることが難しかった。5日間(或いは、公演期間の2週間)で考えることが出来る内容には、元々限りがある。だからこそ自分の能力を過信せず、できる限りの用意をするべきだった。

今回の舞台で、自分の演技について、今後必要な力が何か、考察することが出来た。その力を獲得するために、より多くの舞台に参加し、演技の側から作品を創作する経験をもっと積むべきだと考える。

合田篤慶(タヌキ役):大学4年。2009 年 5 月〜2021 年 12 月、劇団ひまわり所属。

普段、 三 枚目の役が多く、もっとふり幅を増やしたいと思っていたので、タヌキという役に挑めて自分の課題に取り組むことができた。短期間での稽古は難しかった。

本番前日の通しリハーサルでは自分自身の役の調整は80%くらい完了していたが、 全体をみると物語の線は繋がってないと感じた。 なので、 自分を含めどうすればこのシーンは盛り上げられるのか、役と役の関係性など一生懸命考えた。

そして本番がスタートするとすごく楽しくなった。特にオセロゲームのシーンは今までで一番ゲームっぽさを出せたのではないかと感じた。他にも揉めるシーンなども良かったし、 やはり本番パワーは存在するのだなと改めて知った。

これからも、どんなに期間が短くても、短いなりに役を製造し、脚本の中で自分らしさを出し、役者人生を謳歌していきたいと思う。

水谷琴音(サダヌキ役):大学1年。都立総合芸術高校 舞台表現科卒業。

稽古期間が短い分、公演まで焦る気持ちは常にあったが、短期間で学ぶことができたため、参加できてよかった。

稽古やフィードバックを通して、自分自身の課題に気づいた。

①ステータス

常に同じステータスではなく、場面や言葉一つ一つによってステータスは変動していくため、各シーンで考える必要があった。「今、サダヌキはこの人物に対して、どのように感じているのか」を考え、そのステータスの変化が観客に見えるように、 相手役との距離感や行動速度を意識した。しかし、本番まで全てのシーンでそのステータスを十分に台詞や身体に落とし込むことができなかった。

②言葉の伝え方

私は言葉を早く、すぼみがちに言ってしまう癖があり、 稽古中に何度も言葉が伝わりにくいと指摘された。稽古当初、その要因は口を横に開きがちなことや基本的な腹式呼吸の呼吸法を意識できていないことだと考えていたため、 言葉の速度を意識的に落としていた。しかし、結果的に体感速度も遅くなり、場面全体のテンポ感が遅くなってしまった。その経験から、体感速度を意識した上で、言葉を伝えることが自分の課題であると気づいた。

③言葉と身体の一致

昔からこの課題があると気づいていたため、稽古で意識はしていた。しかし、今回の稽古でも自分の台詞は走っていても、体は落ち着いていたり、体感速度が速いのに言葉が追いつかなかったりすることが多々あった。ただ、意識するだけではなく、稽古過程で常に「今本当に動くべきなのか」、「言葉が身体から浮いていないか」を共演者などに意見を聞くことが重要だと気づいた。そして、その意見を踏まえた上で、稽古場で様々なアプローチを試し、自分の言葉と身体に違和感がない状態を見つけていくことがこの課題を克服するのに効果的な方法であると感じた。

④会話のキャッチボール

目の前で起きている状況を受け取り、役としての反応を示すことで、初めてコミュニケーションは成立する。相手がどのような表情や距離感で自分と関わっているのかを受け止めた上で、反応していかなければならない。

⑤相手を動かす

稽古過程で、あまり、相手を動かすことには重きを置いていなかった。自分の中で演技のプランはあったが、稽古当初から積極的に相手を動かすことができていなかった。稽古後半からは自分がしたいことを伝え、それに対しての共演者の意見を聞き、お互いでその場面を作り上げるという方法に変わったが、全体的に見れば、自分が相手役を動かすことはできていなかった。共演者を頼り、共に芝居を作り上げていくという感覚を持つことが必要だと感じた。

小林沙瑛(マタギ役):早稲田大学文化構想学部1年

長い脚本を演じるのが初めての私にとって「演じる」ということに真正面から向き合う良い機会となった。

今回の稽古では、発話を相手にどのように届けるのかを可視化するためにキャッチボールを何度も行った。これにより、相手に適切な届け方をするにはどうしたらよいかを考えられるようになり、また、相手に言葉が届いたことは第三者が見てもわかるのだということに気が付いた。もともとは自分のものではない「台本の言葉」を読み上げるときは、日常生活で相手に言葉を伝えるときと同じ気軽さではいけないのだと思った。

また、「看守」と「囚人」のどちらに対して働きかけるかによる反応の違いに意識的になる必要があった。話す相手によって自分の内部での緊張感が変わる感覚を、はじめはかなり強く意識する必要があった。身体の内部の声に耳を傾けることによって言動や動作などの機微が規定されることを実感した。これらは日常生活では自然に起こることであるから、「演じる」ためには多少自然に逆らう必要があるのだと思う。

本番で初めて、広い会場で多くのお客さんを前にしたとき、稽古場で演じるよりも客席を意識する必要があると感じた。あるいは、稽古段階からその状況を想定しておくべきだった。しかし、客席を意識するのは「自分自身」であり、「役」にとってはそんなことは関係ない。だから、そのバランスを上手くつかめずに非常に苦労した。今後の機会で模索していく。

森口夏希(ケンザブロー役):中央大学文学部2年

感情的で素直ですぐ暴走してしまうケンザブローになりたいと思って役を選択した。どうしたら自分の思い描くケンザブローになれるのか、衝動的に現れる怒りや高ぶりをどう表現すれば良いのか、それがなかなか出来なくて悲しかった。そもそも演技している時自分の感情が出てきてしまい、自分が今持っているものとは違う感情を突発的に表現するのが苦手だ。だからこそケンザブローを演じてみたいと思い、自分がクリアしたい課題であった。

約2時間の台本は私にはすごくハードルが高かったなと感じた。それでも何かに追い立てられるようにこんなに必死になって演技に向き合った経験は少なく、いつもの楽しいという思いばかりではなく演技に本気になる意識を持つだけで見えてくるものや気になる部分が変わるんだと気づいた。

今後は、本企画を通して得た感情の持ち方や作り方のヒントを自力で出力できるようにしていきたい。またそれには声の出し方や身体の反応が大切になってくるので少しずつ意識できるようにしていきたいと思う。そして演技が楽しい、演技をしてみたい、演技に興味があるという気持ちをこれからも持ち続けられたら良いなと思った。

佐藤友香(ヨコヤマ役):明治大学 文学部 文学科 演劇学専攻1年

お客さんに“見せる”ものなので、姿勢は前かがみにならず目線を上げて発声することを心がけるようにした。

人や対象物との距離感を常に意識するようになった。特に、看守マタギへの微かな緊張感は本番も自然と出ていたため良かった。

一方、自分が目立つシーンでは大いに目立って、というのは比較的簡単のように感じたが、団体芸などにおいて他の役を際立たせるのが難しいと感じた。テンポ感を自分の中で掴めてなかった節があるので、個性を出す前に、まず周りを見て合わせるという集団行動ができるようにならないといけないなと思った。

堂々としていないといけない役回りなのに、客観的に見て弱々しく見えてしまい、これを改善するのが非常に難しく感じた。暴力を止める方法は「物理的に止める」だけはないことを知った。

なんのためにこの動きをしたのか、なんのためにこのセリフをこの口調で言ったのか、という理由付けが非常に重要であることを理解した。これらは脚本を書く時や演出を付ける時にも使えるのではないかと思い、今後に活かしたいと思っている。

ディレクターの振り返り

企画者(ディレクター)の若尾颯太(桜美林大学演劇ダンス専修卒業。24歳)による、企画の振り返りです。


本企画にディレクターとして関わって色々見えてきたものがあった。

まずは、普段俳優をやっている自分を客観的に見ることができた。
具体的には演じる上で自分が何を大切にしているのか、どんなことを考えているのか言語化して伝えたことでこれらが見えてきた。

また、稽古場で扱うワークを考えてアプローチするという新たな立場を経験することができた。
普段は、演出家に与えられた課題やアプローチを自分なりに解釈して表現をしている。しかし今回は、演技で必要だと思うことを具体化して提供した。提供して実践してもらうことで自分ならどのようにアプローチするのか考えることができた。

よかった点と共に課題も同時に見えてきた。

まず、戯曲全編の上演に挑戦するよりもシーンを抜粋して行う方が、より成果が見込めたのではないか。
戯曲全編に向き合うことと、自分の演技の課題について向き合うことは別物であるから、どちらかに絞っても良かったのではないか。
稽古場で出した課題や伝えたことを、役者一人一人が色々な方法で試して、それについてしっかりとフィードバックをする方が課題に対する実感が強く感じられると思う。

これらを踏まえて、台本の抜粋部分と稽古場で扱うワークをある程度絞った状態で挑みたい。
声なら声、関係性なら関係性というふうに絞ることで時間は掛かるが成長が見込めると考える。
そして、「ディレクターがワークを一方的に提供する。それを参加者が実践する。」という形を超えて、互いに疑問や課題を提示し合うという形で挑みたい。

成果発表公演の記録映像(上演部分のみ)

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